4:名無しNIPPER
2021/05/03(月) 12:07:14.93 ID:fXMEQlMj0
図書館を出ようとした、その時。
私は図書カードという存在を知った。
まだ読みかけの本がある。
この本を置いて外には出られない。
「〜〜って本どこにあるの?」
「そちらの本はただいま貸し出し中でして・・・」
「この本借りたいんだけど。」
「こちらの列の最後尾にお並びください!」
日曜日に図書館に来たのが失敗だったのか。
普段は静謐な空間であるはずの図書館も多くの人で賑わっていた。
「・・・・」
図書カードを作るために、職員の方に声をかける必要がある。
そんなことはわかっていた。
しかし、私には、職員の方達にカードを作りたいと声をかけることができなかった。
「すみませんこの本、返却期限過ぎちゃったんですけど」
「こら!図書館では走らないの!」
「ママ、喉渇いたよ〜」
「図書館はお静かにご利用ください。」
知らない音。
知らない言葉。
他者に埋め尽くされた空間に、私は身体を震わせた。
今日は諦めて帰ろう。
そう思った矢先だった。
「どうしたんだ。そんなに本を抱えて。」
「北高の制服だよな、それ。なんか困ったことでもあったのか?」
声のする方向に顔を向けた。
なぜだろう。
その人物と話すことは初めての筈だ。
それなのに、真っ直ぐに目を視ることができた。
灰色の私の世界に、
彼は確かに色彩を持って現れた。
私の運命が、カチリと変わる音がした。
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