9: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2021/01/30(土) 07:39:58.49 ID:/1fb2KCg0
音楽が流れ出す。
メロディーに乗せられて、言の葉を紡ぐ。
観客の表情が、小さなライブハウスのおかけで次々と変わるのが目に映る。
腕を組んで斜めに見ていた人が、音楽が流れ出しても隣と話していた人が、ストローに口をつけていた人たちが。驚いたように見上げて一斉に私を見る。その変化に自然と声にますます力が入る。
ああ――――――――――アイドルになって良かった。
あの人を信じて正解だった。
一曲。たった一曲を歌い終えた時には、肩で息をしていた。そんな私をたくさんの拍手が讃えてくれた。
ここにいる人が百人とは信じられないほど多くの拍手に思わず涙が出てきて、隠すように頭を下げて終わりの挨拶をする。
ふらつきながらステージを離れる私を、大きな影が隠すように迎えてくれた。
「高垣さん、お疲れ様……ッ」
倒れそうになってしまったから、ついその大きな胸にもたれかかってしまった。
「……いい、ステージでした」
泣いている私を見ないように、ただ彼は私を褒めてくれる。それが嬉しくて、泣き顔を見せないためと自分に言い訳をして顔をうずめた。
「プロデューサー……」
「はい」
「モデルの頃から応援してくれていた人がいました」
「ええ」
「カメラを通して、ファンのためにがんばろうって考えていたら……以前の私はもっと違っていたと思います」
何となく生きていたあの日々。そんな私でも応援してくれる人がいた。ファンのことを考えていたらもっとモデルの仕事に打ち込めて、充実した日々を送れていたかもしれない。
でも愚かな私は、きっと生き方を変えないとそのことに気づけなかった。
だから、アイドルになれたことが嬉しい。モデルの頃から、そして今になっても応援してくれるファンの有難さが胸に染みる。今日私を知ったばかりなのに、あんなにも拍手をしてくれた人たちに感謝があふれてくる。
「教えてくれてありがとうございます。こんなにも私を応援してくれる人がいることを。これからも私を応援してください」
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