楓「恋と呼ぶのでしょう」
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10: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2021/01/30(土) 07:40:50.81 ID:/1fb2KCg0
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 それから順調にアイドル活動が進んでいった――わけではない。

 私だけに限れば、絵にかいたような売れだし方ができて、気づけば新設されたばかりのアイドル部門の顔となった。

 美嘉ちゃん、小梅ちゃん、幸子ちゃん、茜ちゃんたち四人も、わずか数ヵ月でその知名度を大きく伸ばした。

 でも全員が全員、その努力に見合った成果を得られるわけじゃない。そもそも私たち五人に成果が早く出てしまっただけで、“あの子たち”もあと少ししたらその努力に見合う成果が待っていたかもしれない。けどあまりに早く成果が出てしまった私たちが隣にいて、必要以上に焦ってしまった。

 プロデューサーも良くなかったかもしれない。焦る彼女たちに「貴方たちもすぐに活躍できる」と何度も励まし、少しでも次の機会につなげようとライブのバックダンサーやドラマのエキストラの仕事を用意した。けれどいつまでたってもプロデューサーの言う「すぐ」は来なかった。もっと時間をかけてゆっくりと頑張りましょうと、根気強く説得していれば――いえ、こんなこと今になって言えること。

 焦ったあの子たちはレッスンを過剰なまでに頑張りすぎて、プロデューサーとトレーナーに内緒で自分たちで自主トレまでして――プツンッ、と限界が来てしまった。 

 全治六ヵ月。

 それはデビューしたばかりで、はっきりとした手応えを得られていないあの子にとって絶望的な長さに思えたでしょう。私は何と言っていいかわからなかったけど、とにかく顔を見ようとお見舞いに行った時でした。病室から聞き覚えのある声が、初めて耳にするヒステリックな様子で叫んでいたんです。

「怪我が治ればって……怪我が無くてあれだけがんばってもダメだったのに、怪我なんかしたらますます無理に決まっているじゃないですか!」

 ●●ちゃんの、涙が混ざった悲痛な叫びでした。

「がんばればCDデビューできるって……貴方が言ったからがんばった。貴方も色んな仕事を持ってきてくれた。この仕事で次につなげましょうって……でも、ダメだったじゃない。だったらもっと……がんばるしか…なかったじゃない」

 その胸が締めつけられる嘆きで、病室には今プロデューサーがいるのがわかりました。私はあまりの事態に硬直して、為す術もなく立ち尽くします。

「もういいよ……私じゃ最初から、アイドルなんて無理だったんだ。楓さんたちについてあげてよ。楓さんたちは、私と違ってアイドルなんだから」

「私は――ッ」

「出て行ってよっ!!!」

 かすれた声は、少女の口から出たとは思えないほど大きな絶叫に遮られた。やがてドアが開くと、青ざめた表情のプロデューサーが出てくる。その死人のような様相に、かける言葉が見当たらなかった。

 彼は私に気づくことなく反対側の廊下を進み、そして姿を消した。

 こうして●●ちゃんはアイドルをやめた。

 ●●ちゃんと一緒に隠れて練習をして、怪我こそしなかったがオーバーワークと診断された■ちゃんと★★ちゃんの二人も、後を追うようにアイドルをやめた。

 それからプロデューサーも様子も変わってしまった。私たちと接するときに距離を取るようになる。事務的な応対に小梅ちゃんと茜ちゃんは困惑し、幸子ちゃんは怒り、私と美嘉ちゃんの二人で他の三人を宥めることが多くなった。

 仕方がない。一生懸命プロデュースしていたアイドルに大怪我をさせてしまい、そして夢を諦めさせた。今までと同じようにアイドルと接することができなくなっても、仕方がないじゃない。

 でも時間をおけばきっと大丈夫。私たち五人がプロデューサーの下でしっかりと成果を出して、プロデューサーに変わらない信頼を持ち続けていれば、きっと彼も立ち直るはず。





――その話は彼がまだ立ち直っていないのに訪れた。

 シンデレラプロジェクト。


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