楓「恋と呼ぶのでしょう」
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3: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2021/01/30(土) 07:34:42.07 ID:/1fb2KCg0
「失礼します。うちのアイドル部門の人が、高垣さんとお話したいって言ってるんですけど今大丈夫ですか? 面倒なら適当言って断りますから」

「……アイドル部門? うちにあったんですか?」

「ああ、最近のことですから。芸能部門から独立してできたばかりの部署です」

「へえ」

 346プロにそんなことが起きていたとは知らなかったので、その人に興味がわいた。気づけば持ったばかりのボールペンが机に転がっている。

「いいですよ。どちらに向かえばいいですか」

「……いいんですか? では面会室で待ってもらっているんでそちらに」

 スタッフの歯切れが悪い様子が気になったけど、それはかえってこれから会う人への興味を湧かせるものだった。

 面会室に向かいながら考える。アイドル部門の人がいったい私に何の用だろう?

 普段ならマネージャーを通して仕事をもらうけど、私は個人事業主というものになる。モデル関係の仕事は346を通すという契約は結んでいるけれど、それ以外は基本的に自由だ。まあモデル以外の仕事はしたことがないし、今からお話する相手は別部署とはいえ同じ346の人だからこれは関係ないか。

 立ち上がったばかりの部署というから、新人アイドルに写真うつりのコツを指導してほしいという話だろうか。それとも新人アイドルの企画に協力してほしいという内容だろうか――ということを考えていた。

 だって想像できるわけがない。

 私にとってアイドルとは、十代の若い子が目指すもの。

 十代の頃にアイドルになって、私より年上になっても続けるというのはわかるけれど――





「アイドルに……興味ありませんか」





 まさか二十四になる私をアイドルにスカウトするとは、夢にも思いませんでした。

「私が……アイドルにですか?」

 歌手になるという話には抵抗を覚え、警戒もしていた。

 でもこの時の私は興味ばかりを持っていて、まさかアイドルに勧誘されるとは思わずまったくの無警戒でした。そして不意を打たれたあとも、身構えようとする気がまったく起きません。なぜでしょう?

 それは私をアイドルに勧誘した人が、あまりに実直で、そして親近感を覚えるほど言葉足らずだからでしょうか。

「今……貴方は楽しいですか」

 照明の影が私を覆うほど大きな体で、言葉をゆっくりと紡いでいきます。それは私に理解を求めるもので、なし崩しで私の求めないものを無理強いしようとする意志は少しも見られない。 

「さあ……どうでしょう」

 モデルに向いていると評価されて、あとは言われるがままに。良くされているという自覚はあるけれど、寂しさを感じることも多い。

「どうしてそんなことを訊くんですか?」

 そんなことを訊いて、期待させた責任をとってくれるんですか?

「すみません。貴方が今……夢中になれる何かを、心を動かされる何かをもっているんだろうかと、気になったものですから」

 その大きな体で申し訳なさそうに話す姿が面白かった。その怖い顔つきで真剣になって話す内容がアイドルについてなのだから、やっぱり面白い。本気の相手に申し訳ないとわかっていたけれど、クスクスと笑いが漏れてきてしまう。

「あ、あの……?」

「ふふ、申し訳ありません。それで私が今楽しいか、でしたよね? もし楽しくないと私が言えば……貴方は私をどうしてくれるのですか?」

 こんなに胸が高鳴るのはいつ以来だろう? 期待がこんこんと胸からわき、コンコンと私の心臓を叩く。


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