楓「恋と呼ぶのでしょう」
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15: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2021/01/30(土) 07:43:37.16 ID:/1fb2KCg0
――夏が終わろうとする頃。事務所はある話題で持ちきりだった。

 それは海外から会長の娘さんが戻ってきて、役員を務めるという話。それは驚きと共に広がった。

 最初は皆、好意的に受け止めていた。

 海外で勉強した女性が役員を務めるとあって、特に女性陣からは期待の声が多かった。

 でも現在進行中のプロジェクトを白紙にすると突然決まったことで、期待は失望に、そして不安や恐怖へとすぐに変わっていく。

 ロビーを歩く人たちの多くがうつむき加減で、アイドル事務所特有の華やかさがあっという間に失われていった。

「あ……」

 すれ違う人の中にプロデューサーの姿を見かけた。こんな状況でもうつむかずに、でも土気色の顔で速足に進むあの人の後ろ姿。

 あの人が会議の場で常務の方針に真っ向から意見したことは、常務についての噂と一緒に広まっている。

 よく言ってくれたという反応が多い。だがそれだけだ。誰も味方をしようとはしない。アイドルのために役員の機嫌を損ねる人なんて、そうそういない。

 中には――

「武内も馬鹿だよな、様子見もせずにいきなり常務に逆ら――っ」

「……フンッ」

 こんな風に常務に不満を持っているクセに意見をする気概もなく、あの人をバカにする人までいる始末。

「オマエ馬鹿か。高垣さんに気づかずに武内の悪口言うなんて」

「ビビった……最近一緒にいるの見ないけど、やっぱりそうなのかな?」

 慌てて立ち去る二人から小さく零れた声に、しまったと感じた。せっかく迷惑をかけないように避けていたのに、ついカッとしてしまった。

「あ、高垣さん!」

 そんな時期でのことだった。私が常務に呼び出されたのは。


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