夢の残骸に思いを馳せて
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3:名無しNIPPER[saga]
2021/01/10(日) 19:15:28.36 ID:rddhOFwr0


ふと、目を開けるとゲートが開いていた。閉鎖されてから一度も開かれることの無かった夢の入り口が開き、キイキイと錆びた音を鳴らしながら手招きするかのように揺れている。立ち入り禁止の柵も看板も、常に巻かれていた鎖も消えていた。

まるで何かに導かれるように、何も考えることなく足を踏み出していた。ゲートの内側へ、役目を終えたかつての夢の国へと

たった一歩、敷地内に足を踏み入れた途端空気が変わった気がした。賑やかな繁華街から薄暗い裏路地へと入り込んだような、車が入り乱れる大道路から古さびた墓場に入ったような、漠然とした、それでいて確かに感じる空気の違い。

先ほどまで近くに感じた人の往来や車の通り過ぎる音は遠くに聞こえ、空の雲一つに至るまで遠い背景に映し出されているような、違う世界の景色にさえ思えた。

あの音楽が無くても、アトラクションの動く音や人々の笑い声がなくても、かつての夢の国はやはり現実から切り離された世界として存在しているのだ。


一歩一歩、かつての夢の国を見渡しながら歩いてゆく。極彩色に彩られていた塗装は剥げかけ、建物に飾られているキャラクター達の目に生気は宿っていない。

足下の舗装されていたアスファルトにはヒビが入り、割れ目から生えた名も知らぬ雑草が好き勝手に延びている。人が手を加えることがなくなった植え込みはかつて象っていた様々な意匠を忘れ、ただ不格好な草木として存在している。

くたびれた着ぐるみは壁にもたれ掛かるように捨て置かれ、脱皮した抜け殻のように開いた背中から見える剥き出しのチャックが夢の終わりを告げていた。美味しい食べ物を売っていた屋台は横倒しにされ、地面から生えた植物が蔓を巻き付けている。


何があったのだろうか、この建物はもはや崩れかかり、一部は瓦礫に埋もれてさえいる。入ることを躊躇い、既に割れている窓から中を覗くと金属のフレームがむき出しになったぬいぐるみ達が独特なポーズで固まっていた。

まるでついさっきまで踊っていた最中に時が止められたような、そんな錯覚さえ覚える。ステージを照らす照明はいくつかが床に落ち、その代わりに天井に開いた穴から歪に差し込む光がもう動くことのない彼らを照らしていた。


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