高森藍子「加蓮ちゃんたちと」北条加蓮「生まれたてのカフェで」
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23:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/25(金) 20:54:06.89 ID:mOMWMpAw0
話を逸らせればなんでもよかった。でも脇道の選び方を間違えたかもしれない、そう思ったのは、そーちゃんが例の肘曲げポーズで手を上げて、その手の行き先を失った時だった。

「わたしのおはなし……」

看護師さんも、僅かに険しい顔になる。……病院の患者ならともかく、入院患者は自分の言葉をたくさんは持っていない。
見ている世界が狭く、場合によっては知識も限られる。有り余る時間と幽閉されているが故の好奇心が、その場にいながらも吸収できる知識へと向けられればいいかもしれない。
でもそうじゃない時、辛い現実を突きつけることとなる。
自分探しをした結果、何も見つからず打ちひしがれるのと同じ。

「うんっ。わたし、うたをうたうことがすき!」

だけど、そんな私達の心配を杞憂へと置き去りにして、そーちゃんは立ち上がる。

「あっ、かれんちゃんは知ってるよね!」
「……うん、知ってるよ。歌うこと、楽しいもんね」
「たのしいの! それで、たくさんうたって、わたし、いつかかれんちゃんになるの!」

その言葉を一笑で片付ける人は、ここにはいなかった。病院にもいないといいな、って思う。

「〜〜〜♪ 〜〜〜〜♪ ……えへへっ」

私の持ち歌の、サビの終わり際。ワンフレーズだけを口ずさんで、そーちゃんは恥ずかしそうに座り直した。

「あのね、おかあさんの前でも、うたってみたの。そうしたら、おかあさん、すっごくうれしそうだった!」
「そう……なの?」
「それでそれで、いつかはかれんちゃんになれるよ、って言ってた!」
「……っ!」
「それでね、それでね。わたし、うたってもあまりつかれなくなったんだよ。おいしゃさんは、わたしががんばったから! って、言ってた!」
「そっか……!」

布の擦れる音がした。看護師さんが背を向けていた。こちらを向き直した時にはもう、あのふてぶてしさすら感じる作り表情。目が、ほんのちょっとだけ赤くなってたみたいだけど。


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