70:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/01(火) 23:54:09.09 ID:6NLLeJ5C0
今度はインターセプト――この女、本のこととなると。
鼻先にぐい、と突き付けられたそれに、しかしかぶりを振った。
「大事な御本でしょう。汚してしまうかも」
「本にとっては、読んで頂けるのが、大事なのです」
「貴女御自身、まだお読みだったと思いますが」
「一言一句までを諳んじようというものでは、ありませんから」
もう何周かはしたらしいと分かった。これでは仕方がない。ここまで嬉々と詰められて断るのでは失礼の感を与えずにはおれまい、まあ書店に赴く手間も省けるし、気を付ければいいか、と丁重に受け取った。
「……ありがとうございます。大切に読んで、早めにお返しします」
「ごゆっくり、お楽しみ下さい」
こんなににんまり笑う人だったか。
ずしり、と重みを感じた。ハードカバーが珍しい訳ではなかったが、こういう高価そうな本は持ち慣れない。所有しているだけで、頁が破れ、表紙が溶け、あるいは灰にでもなってしまいそうだ。
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