62:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/01(火) 23:48:01.27 ID:6NLLeJ5C0
文香は滔々と語る。千夜は頷いた。
「『アリババ』の物語や『アラジン』は、千夜一夜物語の中でも特に有名で、ガラン版にも収録されているものなのですが…… これらは、ガランが底本とした写本には存在しないのです」
「存在しない? 原典には書かれていない物語なのですか?」
「はい。千夜一夜物語は、語り手シェヘラザードが、王に様々な物語を聞かせるという構成で、一夜一夜の区切りがあります。一夜に一つの話、ではなく、三十夜を費やして語られるような物語もあるのですが、こういった構成から、ガランは、物語が『千夜一夜』の文字通り千と一夜の分、存在するものだと考えたのです。しかし、ガランの持つ写本には、二百八十三夜の分しか、ありませんでした。
ガランは残りの物語を求める中で、シリアの男性、ハンナ・ディヤーブと面会し、彼から『アリババ』や『アラジン』の物語を聞き取ったのだといいます。
ですが、これらの物語は、ガランの書き付けが、残存する最古の資料なのです。それ以前のもので、ハンナ・ディヤーブが語ったとされる『アリババ』などの出典といえるような資料は、ありません。従って『アリババと四十人の盗賊』、また『アラジン』の物語は、その初出、原典が、フランス人のアントワーヌ・ガランによる、仏語訳の千夜一夜物語、『ミル・エ・ユンヌ・ニュイ』だ、という事になるのです。
……ゆえに、これらの物語は、ガランの創作によるものではないか、と疑いを受け、正当な千夜一夜物語、アラブ世界で脈々と口承されて来た、物語群の一部としてではなく、外典として扱われることが、あるようです。研究者ミア・ゲルハルトによれば、これらはアラビア語の原典を持たない、という意味で、『孤児の物語』である、と」
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