61:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/01(火) 23:47:24.34 ID:6NLLeJ5C0
「そう、ですね……」
文香は聞き終えると、暫く考え込む様子を見せてから、遠慮為い為い口を開いた。
「あらゆる物語に共通することではありますが…… 決まった解釈というのは、やはり難しいですね。作者個人についての研究をもって、生い立ちや交友、思想や信条を知ったうえで、ひとつの文章に思いを馳せようというのなら、それはよい試みだと思いますが……
ご存知のように、千夜一夜物語は、一人の作者の手になるものでは、ありません。古くから多くの語り手によって、脈々と受け継がれてきた物語の、集合体なのです。『千夜一夜』としての原型の成立は、九世紀頃とされます。
千夜一夜物語が広く知られるようになったのは、一七〇四年からフランスの東洋学者、アントワーヌ・ガランによって公刊された仏語訳版がきっかけです。彼は十五世紀のシリアで作られたと考えられる、手写本を入手し、これを主な底本として翻訳し、千夜一夜物語を西洋の世界に広めました。このガラン版の元になった写本、シリア写本や、ガラン写本と呼ばれているものは、現存する、まとまった千夜一夜物語としては、最も初期の形態に近いものであり、これをさしあたって原典として扱うことは、可能なようですが……
『アリババと四十人の盗賊』については、もう少し複雑なのですよ」
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