ライラ「アイスクリームはスキですか」
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8:名無しNIPPER
2020/11/08(日) 09:03:22.33 ID:FQVp12gN0

 ぼんやりと思い返すライラ。公園のベンチで行き交う人を眺めたり、交流したりするようになったのは新緑が始まる頃だっただろうか。あれからぐるりと季節が一周して、再びの緑を目にした。そしてさらにまた今、暑い暑い毎日がやってきている。それはつまり、彼に、みんなに、そしてこのアイドルという世界に出会えた季節がまたやって来たということでもある。
 情報が濁流のように駆けゆく毎日の中で、自身のおぼつかなさを痛感することはしばしばだったライラ。もともとそんなにテキパキと動ける人間ではないし、それが日本語ばかりの世界ならなおのことだ。でもそれは仕方のないことだし少しずつ、できることから頑張ろう。そう思っていた彼女への、光り輝く世界へのお誘い。
 最初は半信半疑だったライラ。だけど徐々にいろんなことができるようになってきて、いろんな人に出会えて、そしていろんな人に支えられながら歩んでいく毎日が、だんだん楽しくなっていった。
 彼との出会いが、差し伸べられた手が、あのお誘いの言葉がなければ、アイドル活動はもちろん、こんなに慌ただしく毎日を過ごすことすらできなかっただろう。経験したことのないような日々の忙しさとともに今はいるけれど、それはとても暖かくて、とても幸せで。それは嘘偽りのない、ライラの率直な気持ちだった。
 故郷の父母や親族への想いもいろいろあるけれど、ここで得た友達や、お世話になっている方々へのたくさんの感謝や、尊敬の念や、トクベツな気持ち。それがどんどん増えているという事実が、少なからず時が経っているんだということをライラに実感させていた。
 窓際に立ち、再び夜空に視線を移す。心なしか、今日は月も星もひときわ輝いているようだった。
《明るい夜は、神秘と隣あわせ……でしたっけ》
 思いを馳せる。
 アラブに伝わる古い説話に『月を想う』というものがある。赤い月の日はよくない兆候、満月は力に満ちている日といった、よくある伝承をまとめたものだ。その中に「明るく月が照らす夜は、わずかに与えられた自由のひととき」と触れられた一節があって、ライラはそれが好きだった。それは普段言えないことを言ったり、できないことをしたり、たそがれたりする瞬間。北の大地の白夜のような、もっともあれと違って本当に短い時間のことだけど。そこには非日常があり、日常との境界はない。日本でも夕の刻を「彼は誰時」なんて言ったりするらしいけれど、非日常との曖昧さは国を問わず、畏敬の対象でもあり、ロマンでもあるのかもしれない。
「……プロデューサー殿」
 意図せずぽつりと言葉が漏れた。日本語だと「ツキ」と「スキ」は、少しだけ似ている。





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