ライラ「アイスクリームはスキですか」
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6:名無しNIPPER
2020/11/08(日) 09:01:25.78 ID:FQVp12gN0

 U ミッシング・イン・ザ・シティ


 人にはそれぞれ役割があるし、きっとそれぞれに責任もある。あるいは希望も。 
 (青木明/トレーナー)

   
「そう、そこでもっと伸ばす。いい感じよ。最初からの流れで今の動きまで行けるようにするのが次の課題かしらね」
「あー……、えっと……あー……ムズかしいですねー」
 わたわたと不慣れな様子を露呈するライラ。うつむく彼女を見て千夏がくすり、と笑う。
 別日、レッスンルーム。ようやく始まった新しいレッスンプログラム、当面はお手本を見つつ学ぶということで、先輩アイドルのレッスンに合流させてもらうことになった。快諾してくれたのは相川千夏だった。
 私で役に立てるかしらと謙遜していた千夏だったが、蓋を開ければ想定通り、いやそれ以上に、丁寧で優しくて、そして何よりお手本たりえる美がそこにはあった。
「ライラさん、よく見ていてくださいね。相川さんはここまでの三つの動きのつなぎがとても自然でしょう? 全体の流れをちゃんとイメージしていないとこうはならないんですよ」
 トレーナーが身振りを交えながら細かな動きについて補足する。目の前でのお手本、その仔細な説明、そして実際に自分も真似して、それにアドバイスをもらう。ぜいたくなレッスンですね、と明は冗談交じりに笑った。
「でも遠慮はいらないですから。それよりもこの時間を積極的に活かしていきましょう」
 貴女のことはみんな信頼しています。焦らなくてもいいから少しずつ、とトレーナーは念を押した。
 改めて目の前でステップを踏む千夏に目をやるライラ。ふだんは寡黙でクールな彼女だが、表現の美しさ、しなやかさ、そして躍動感に思わず見惚れてしまう。基礎練習で似たようなことをやっているときは穏やかで、でもこうしたところで見せる迫力や色気を見るとその差は歴然で、すごい人なんだということが改めて実感させられた。

「ふぅ……」
 レッスン室そばの休憩スペース。ベンチに腰を下ろし、思わず大きく息を吐く。ライラにとって学びいっぱいで、そして己の未熟さいっぱいなことも再認識する時間だった。
「お疲れ様。大丈夫?」
 電話中だった千夏が戻ってきた。ドリンクが差し出される。
「あ、はい。ありがとうございますですー。とってもすごかったですねーチナツさん」
「そうかしら? ふふ、ありがとう♪」
 今日の振り返りとともに、今後しばらくのスケジュールについて話を交わす二人。
「とっても嬉しいのですが、ご迷惑ではありませんかー?」
 少しだけ不安がるライラ。そんなことはないわよ、私自身も確認になるし、と千夏が返すも、それならばよいのですが……と、少し冴えない。
「ふふ。みんな慣れないうちは大変なものよ? 気負わず少しずつ、ね」
 無理せずライラのペースでいけばいいから、と優しい口調でフォローする千夏。
「おおらかで優しいいつものライラも素敵よ。でも今のあなたはそこからもう一歩前に進もうとしている。だから苦労するし、だから学びもきっと多い。それはとても尊いことなの。だから絶対に、自分を否定しないでね」
 そして、いろんな人にどんどん頼ってね、と。
「レッスンに限らず、悩むことがあったらいつでも相談に乗るわ」
 そんな会話とともに今日はお開きとなった。千夏はふたたびトレーナーのもとへ向かった。個人的な確認事項があるから、と。
 荷物の片付けをしながら、ライラは考える。千夏に言われるまでもなく、自分はいろんな人に頼りっぱなしだし、感謝の気持ちで日々いっぱいだ。そうしたありがとうを、アイドル活動の中で恩返しできたら。そう思っているからこそ、少しずつでも形になったり、歌やダンスでファンに喜んでもらえたりするのが嬉しい。
 だけど同時に、自分がどれくらいのことをできるのか、そもそもアイドルを続けていけるのか、そして日本にどれだけいられるのかもわからない。
 先をイメージするというのは、時に酷なことでもある。



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