ライラ「アイスクリームはスキですか」
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57:名無しNIPPER
2020/11/08(日) 09:46:52.18 ID:FQVp12gN0


   * * * * *


 カフェを出て、川沿いを少しだけ歩く。
「近いうちに、またエージェントとは打ち合わせをすると思う」
 彼が告げた。もっとも、資料を揃えるまで少し時間がかかるだろうけれど、と。
「またそれに備えていろいろ話をしよう。でもひとまずは、ライブを終えたばかりだからゆっくりしてほしい」
「はいです。ありがとうございますです。……あと、ライラさんも実は、お手紙を書いてみようと思っています」
「そうなんだね。お父様へ?」
「はい。パパへ……そして故郷のみなさまへ」
 頑張って書いてみますので、また確認してくださいますか? そう説明するライラに、わかったよ、と一言だけ返すプロデューサー。本当はずっと書いたり詰まったりを繰り返していたライラだけど、きっと今なら書ききれる気がする。そう感じていた。
 達成感と、また次が始まるという使命感。そして、物語が続くのだという事実と、そこに胸躍る自分の気持ち。ライラを包む高翌揚感は、いろんな気持ちが綯い交ぜになったものだ。

 月は煌々と輝いている。
 わずかに、風が流れる。
「……プロデューサー殿」
「うん?」
 ライラはぽつりぽつりと、思っていたことを話し始めた。
 ずっといろいろ、考えていた。このまま穏やかに幸せを感じていられればと。こんな毎日が少しでも続けばいいなと。でもきっと、この運命はそうではなくて。物語を描きゆくように、いろいろ移ろいゆくものなのだと。そしてそれはきっと、とても素敵なことなのだと。
「……」
「あの日、故郷を離れ、わたくしは新たな運命の道へと出たのです。そしてまた別のあの日、ライラさんはひとつの出会いを経て、このきらめく舞台へ導いて頂いたのです。本当に、本当に、ありがとうございますですよ」
 ライラが一つ、誰にも話していなかったことがある。
 一人称でしばしば自らを「ライラさん」と名乗っていること。それはプロデューサーが、あの日初めて公園で出会った時に、そう呼んでくれたことに起因する。
「わたくし、ライラと申しますー」
「ライラさんか、素敵な名前だね」
 それは何気ない返答に過ぎなかった。けれどライラにとってそれは印象深い言葉の響きであり、物語の始まりであり、今では大切な思い出でもある。あの瞬間から毎日が少しずつ変わって、アイドルという世界が始まって。いろんな世界を、いろんな自分を知ることができて。だから彼女は、ライラさんという言葉を、その響きを大切に抱き続ける。
「……こちらこそ、ありがとう」
 ちょっとだけ恥ずかしそうにしつつ、プロデューサーも反応する。交わされる言葉は、お互い尽きぬほどある感謝の気持ちの表れだ。
 そしてそれ以外にも、もう一つ。



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