54:名無しNIPPER
2020/11/08(日) 09:44:43.96 ID:FQVp12gN0
拍手と歓声の鳴り止まないステージ上で、皆で挨拶。
キラキラとした舞台から観客席を、そしてその向こうを、広がる世界を眺めるライラ。
《生きていくために大切なことは二つ。受け入れる柔軟さと、揺るぎない想い。その両方なの》
母の言葉を思い出す。もっともっと、世界を知って。たくさんのことを受け入れられるようになりたい。そして、揺るぎない想いも、伝えていきたい。自らの言葉で。
ライラは思う。
もう十六歳だから、という言説もきっと間違いではないけれど。
まだ十六歳だから、という世界もきっとあって。自分が今、そこにいる。
だからもっと向こうへ行ける。夢の先へ。彼方へ。みんなとともに、彼とともに。
過去を否定するのではなく。過去をとともに、物語を紡いで今を生きてゆきたい。
「お疲れ様。とっても素敵だったよ」
舞台袖。ライラのもとに真っ先にやってきて声を掛けたのはプロデューサーだった。
わかっていたことだけど、やっぱりとっても嬉しくて。そして少しだけ、照れくさい。そんな気持ちが入り混じるライラ。
「……どうかした?」
「いえ、なんでもございませんですよー。ありがとうございますです♪ ふふ」
表情を隠すようにタオルを受け取るライラ。いろんな感情が混ざりすぎて、うまく言葉が出ない。
「……えっと、あー」
「?」
今度はプロデューサーが恥ずかしそうに、視線を泳がせる。何だろう、と不思議がるライラの前で、そっと手を開く仕草を見せる。
「……ハグでお出迎え、だったっけ」
ステージ前、楽屋でライラがお願いしたことだった。そういえば、とライラも思い出す。
とはいえ、勢いでしてしまえばよかったものを、間を置いてしまったことで妙な空気が流れる始末。
「改まってとなると、ちょっと恥ずかしいな」
「そうですねー、でも」
でも、大丈夫でごさいますよ。そう言ってライラはそっと、彼に身体を預けた。
優しい優しい抱擁が、彼女を包んだ。
ステージでマイク越しに伝えた言葉を思い出すライラ。
アイ、スクリーム。
それはファンへの、そして故郷のみなさんへの、精一杯のメッセージ。
今日それを言えてよかった。話せてよかった。
歌もダンスも、言葉もすべて。うまくいってよかった。
届くかどうかはわからない。でも、だからこそ、きちんと発信することは大事で。
だからこそ。
だからこそ、アイスクリームをもう一人、しなくてはならない人がいる。
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