51:名無しNIPPER
2020/11/08(日) 09:42:22.76 ID:FQVp12gN0
言葉遊びは華。重ねたり、隠したり。
「好きって気持ちを叫ぶのは、夏のお嬢さんの特権ですね。アイスクリーム、だけに♪」
それは先日事務所で居合わせた長富蓮実の言葉だった。買ってきたアイスをおいしそうに頬張るライラのそばにきて、ニコニコしていたのが印象深い。意味を汲みきれずライラが質問すると、面倒がることなく丁寧に説明してくれた。
「これは懐かしい曲のお話ですけど、それに限らず言葉遊びって本当にいろいろあるんですよ」
「おもしろいですねー」
勉強になったし、奇遇にも自分の好きなものが言葉として紐づいているようでライラは嬉しかった。それこそ古典から今に至るまで、さまざまな言葉に歌に、メッセージにそれはある。ダジャレというと馬鹿馬鹿しく聞こえるかもしれないけど、紙一重でそれは粋なものになるんだということ。どれも大切な学びだった。
ちなみにこのとき偶然居合わせた矢口美羽が頭を抱える仕草をしながら「アイスクリームだけに! アイ! スクリーム! うわ〜〜〜! そういうのわたしもさらっと言いたーい! でも出てこなーい!」と嘆いていたりもしたのだが、それはまた別の話。
ステージから周囲を見渡す。今、ここに立つ自分は多少なりとも粋なのだろうか。そうだったらいいけれど。そう考えながらライラはふたたび深呼吸。持ち時間はあとわずか。
「♪」
さっきよりかなり元気よく声を放つ。アピールタイムのもう一つ。アカペラでの歌だった。今度は日本語の。
シンデレラ、という耳慣れたフレーズがあたりに響く。
そう、この事務所ではもはやおなじみの曲。練習でも何度となく歌い、踊ってきた曲。幾人もの先輩たちが歌い披露してきた曲。そして、千秋があの時アンコールで歌ってみせてくれた曲でもある。
「♪ ♪ ♪」
ライラが披露したのは冒頭からのほんの一節だけ。
それでも、会場の皆が魅了されるには十分だった。
映し出された彼女の姿と、たくさんの境遇を越えてきたであろうという事実と、そんな彼女が今、柔らかで澄んだ声と、快活な笑顔を見せつつ、このステージできらめいているということ。
お願いは、誰の何に対するお願いなのだろう。シンデレラとは、誰のことだろう。
輝く日とは、いつのことだろう。
そんな様々を内包しつつ、だけどそんなことを全て忘れさせてくれるような、彼女の瞳。ただ純粋に、ステージに立つ彼女は美しかった。
ごくわずかな尺だったものの、ファンはちゃんと乗ってきた。即座にケミカルライトを光らせ反応し、ライラの歌い終えと入れ違いに始まるコールパート。「ハイ! ハイ!」という力強い声の波が起こる。あー、今日はここまででございますよー、とライラが控えめにコールを抑える仕草を見せ、ちょっとした笑いと朗らかな空気になった。代わりに拍手と歓声が続いた。改めて一礼するライラに、喝采が起こる。
反応はバッチリだったといっていい。アイドル・ライラはここにいる。確かな自分と、確かなファンをそこに抱いて。それがわかるひとときだった。
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