ライラ「アイスクリームはスキですか」
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48:名無しNIPPER
2020/11/08(日) 09:40:31.07 ID:FQVp12gN0

 \ ディス・イズ・イット


 わたくしは、今、生きています。きらめきとともに。わたくしの意思とともに。
 (ライラ/アイドル)


 歓声と拍手、コールに包まれる会場。
 開演直後からずっと、小さなホールは熱気に満ちていて。
 ライラたちはこの空気に、この情熱に、応じるように歌い、踊り、きらめいてみせた。

「ありがとうございます」
 センターを司る渋谷凛がマイクを取り、この熱気に応じる。
 ライブは滞りなく、万事順調に進んだ。およそ一年半ぶりにこのホールに立った渋谷凛だったが、会場の距離感もステージの使い方も慣れたもの。歌もダンスも申し分なく、見事な凱旋ライブとなった。
 ステージに立つ度に綺麗になると噂される渋谷凛。それは日進月歩の努力が形になっていることを、今なお進化を続けていることを、周囲もファンも知っているということ。
 隙がない、といえば嘘になる。だけど彼女の立ち振る舞いはいつだって懸命で、可憐で、朗らかで、切なくて、柔らかくて、そして凛として、格好良い。
 オーディエンスは知っている。一体感に包まれる彼女のステージを。その空気感を。渋谷凛が、極めて魅力的なアイドルであることを。
 いつか辿り着けるその日まで、という印象的なフレーズを高らかに歌いあげ、ポーズを決めたばかりの彼女。彼女の駆けゆく物語はまだまだ、これからなのだ。
 そんな彼女が思い出のステージで、今度は後進をプッシュするのだから、いろいろ感慨深いところもあって当然かもしれない。事実、今日この場をいちばん楽しみにしていたのは、渋谷凛本人だったといえる。
「それでは、今日一緒にこの場を盛り上げてくれたみんなの紹介に入りたいと思います」
 端から順に紹介を受ける。マイクを渡され、名前を述べたり、今うちこんでいることを話したり、特技を披露したり。偶然にも順番が最後だったライラは、他の人の様子をそっと伺いつつ、言いたいことを反芻して、マイクを待った。

 見てくださっていますか。いえ、後ほど、きっと見てくださいますでしょう。
 どうか、あの頃のボタンの掛けちがいを、間違いだったと思いませんよう。
 そしてわたくしの旅路を、行動を、どうか一蹴するにとどまりませんよう。
 わたくしは、今、ここにいます。
 わたくしは、今、生きています。
 きらめきとともに。わたくしの意思とともに。

「―― では次が最後になります。ライラ、よろしく」
 凛から促され、一歩前に出るライラ。
「こんにちはでございます。ライラと申しますですー。ドバイからやってまいりました」
 何はともあれ、まずはいつもの挨拶。そしてしっかり一礼。いつものライラらしい姿に、ファンから応援の声があがる。ニコリ、とそちらに笑みを返す。
 今は毎日レッスンに明け暮れていること。発見の連続であること。日々が楽しいこと。そうした説明を経て、彼女の話は本題へ。
「みなさんは、どんな『好き』を持っていらっしゃいますでしょうか」
 その場の空気が、少し変わった。傾聴すべき雰囲気を察し、声援が少し落ち着く。
「ライラさんは、いろいろあって日本にきて、ご縁あってアイドルをさせて頂いております。まだまだ未熟で、ご迷惑ばかり。ですが、支えてくださるスタッフのみなさんやアイドルのみなさん、そして応援をくださるファンのみなさんなど、たくさんの方に暖かくして頂いております。ライラさん、とっても幸せ者でございますですね。……ライラさんを素敵だと言ってくださる方もいて。わたくしはこんな今が大好きですねー」
 優しい拍手が起こる。それは嘘偽りのない、彼女の純粋な気持ち。
「きっとこれからも、いろいろなことがあるのだと思います。でも、だから、少しずつでも成長して、素敵になって、みなさんにもっともっと喜んで頂けるライラさんになれたら……と」
 そう言って、深呼吸をひとつ。
「お返しの気持ちもいっぱいありますですが、ステージ上で、キラキラを届けること。それがアイドルの理想のひとつだと教えて頂きました。ですので……少しだけ、歌をお届け致します」
 一拍間を置いて、そっと、しかし確かに、ライラはアラビア語の歌をそらんじはじめた。


 遠い彼方の 煌めき見つめ
 少女は歌う 高く高く
 届かぬ声を もっと夢方へ
 あけの明星 今いずこ   

 遠い彼方の 記憶を浮かべ
 少女は舞い 少女は語る
 想いも夢も 風に乗せて
 はるかな故郷 今いずこ 


 ライラがアピールに選んだもの。一つは、故郷に伝わる古い詩だった。





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