ライラ「アイスクリームはスキですか」
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47:名無しNIPPER
2020/11/08(日) 09:39:14.44 ID:FQVp12gN0

   * * * * *


「プロデューサー殿、今日の夜はほとんど満月だそうでございますよ」
「お、そうなんだ。……ほとんど?」
「はいです♪」
 ライブ当日、開場前の控え室。まだ慌ただしく準備が進む中だが、ライラは他のアイドルとともにメイクを終え、衣装にも袖を通し、用意は万全となった。
 ダンスを振り返る者、歌詞を確認する者、無言で集中する者。皆それぞれに開幕までの時間を過ごす。そんな中、ライラはそっとプロデューサーに声を掛けた。
 さっき偶然聞いたことでございます、綺麗だとよいですね、と補足する。スマホの天気アプリを開くと、確かに今夜は月齢十四・八。
 ぽわっとした、いつものトーンの彼女だ。
「天気もいいし、きっと綺麗だよ」
「そうですかー。嬉しいですね」
 殊の外落ち着いている様子。プロデューサーから見ても、なんだかとても頼もしい。だけどその瞳からは、いつも以上に真剣さが見てとれて。
「プロデューサー殿」
「うん?」
「今日のステージ、ちゃんとできたら」
「うん」
 ライラは深呼吸をひとつ。
「そのときは……そのときは、暖かな抱擁で迎えてくださったら、嬉しいです」
 いつになく情熱的で、だけど恥ずかしさもあるようで。近くに寄ってそっと、そっと。ささやくように届けられたライラの言葉に、驚くプロデューサー。
 だけどそれは、今日に向けて頑張ってきた証でもあるし、今日を大切にする決意の現れでもある。それは彼にも伝わった。
 視線が交差する。少しだけ戸惑いを見せつつも、そっとうなずいてみせる彼。
 えへへ、と照れつつ笑みを寄せるライラ。

 ああ、素敵だな。そうひとりごちるプロデューサー。純粋に、ただ純粋に、彼女の魅力を目の当たりにする。それはきっと彼女が今、ここにいるからなのだと実感する。
 ごほん、とわざとらしく咳払いをひとつ。そして少しだけ彼女のそばに寄って。彼もまた、ささやくように言葉を返す。
「……みんなのライブ、みんなのステージ。でも同時に、ライラのためのステージでもあるからね。それはみんなも同じ。だから、遠慮はなしで。光り輝く舞台の上も、きっと綺麗な今宵の月も。自分のためだと思って、欲張ってみよう」
 積極的にね。そんな言葉に背中を押され、ライラもまたゆっくりと、でも確かにうなずいた。彼のこういう語りが、ライラは大好きだ。
 メッセージくださーい、と言って寄ってきた楽屋裏カメラに「おー。こんにちはですよー。ライラさんでございますー、頑張りますー」と丁寧なご挨拶とお辞儀。近い近い、とカメラさんに言われて立ち位置を直して、周囲からも笑いが起こって。和やかな空気がそこにあった。いつもと変わらぬ優しいライラの姿に、だけどしっかりと意思を感じる背中に、心なしかひときわ綺麗に見えるその横顔に、プロデューサーもドキドキが隠せなかった。

「……じゃあ、そろそろ行こうか」
「「「はいっ」」」
 こちらへやってくるスタッフの様子に気づいた渋谷凛が、率先して声を掛けた。全員が間髪をいれず応じる。刹那、空気が研ぎ澄まされていくのを、その場にいる全員が感じ取った。
 幕が開く。それは関わる全ての人にとっての、大切なひととき。




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