39:名無しNIPPER
2020/11/08(日) 09:31:45.14 ID:FQVp12gN0
Z フロム・ミー・トゥー・ユー
そして私たちは魔法にかかる。いつだって、信じて立つそのステージで。
(渋谷凛/アイドル)
「一息どうかしら」
同日午後。書類と格闘を続けていた彼のもとにコーヒーがそっと寄せられた。千夏だった。砂糖とミルクもひとつずつ。
「ありがとうございます。……あ、僕は」
「ブラックばっかり飲まないの。たまには甘いのもいいわよ?」
「あはは、わかりました」
いただきますね、と屈託のない笑みを見せるその姿に、千夏もわざとらしく会釈を返す。
「あれからライラと何か話してる?」
それなりには、と彼。進行していること、もう少しかかりそうなこと。まだまだ準備が必要だ。とはいえライラは、いい状態になりつつあると語る。
「私から見ても、よくなってると思うわ。技術も、気持ちも」
「でしょう」
大切なのはきっとここからですけどね、というプロデューサーの語りは間違いのないものだ。だけど言葉に比せず、彼は落ち着いていた。
「自信あり、なのかしら?」
「どうでしょうね」
でも期待したくなるくらいではありますし、それに僕も。
「僕も頑張っています」
だからこそ、いい感じですよ。そう語る彼はどこか勇ましい。
「……ほんとうに、ライラの運命に寄り添ってあげているのね」
「僕にできることなんて限られていますけどね」
でもそれが運命なら光栄ですよ。そう言ってのける彼は泥臭くて、凛々しくて。
「……」
「相川さん?」
そして少しだけ、遠くて切ない。彼女の瞳に映る景色は存外複雑だった。
「……一段落したら、どこかデートにでも連れて行ってあげたらどうかしら」
「急にどうしたんですか」
「プロデュースも大事だけど、乙女心も汲んであげないと。ライラだって年頃の女の子なんだから。放っておいたら悲しむかもしれないわよ?」
「いやいや、ライラに限ってそんな」
トボけた笑みを見せるプロデューサー。しばし視線を合わせたものの、千夏はため息とともに、わざとらしくそっぽを向いてしまった。
「そういうところ、本当に」
ズルイんだから、と彼女。こういう時だけ期待に応えない彼は相変わらずだけど、それでもいろいろ思うところがあるのも確かで。とっさに出た言葉はきっと心からのもの。
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