36:名無しNIPPER
2020/11/08(日) 09:29:11.65 ID:FQVp12gN0
《そこまでにしなさい》
背後から見知った声が割り入ってきた。冷静に、しかし多分に怒気をはらんだ声。メイドだった。
《私や事務所のプロデューサー様を介さず、しかもこんな夜に。ライラ様ご本人に直接アプローチするとは随分と礼儀知らずになったものですね》
《それも必要なことでしたので》
意に介す様子もないエージェント。お世辞にも話が通じる空気ではない。
《私はこれで失礼します。ライラ様、よくお考えになってください。そしてまた、皆様揃ってのところでお話を》
エージェントは一礼をしてその場をあとにした。その姿を苦々しく睨み付けていたメイドだったが我に帰り、ライラを気づかった。
「申し訳ありません、到着に時間がかかりました」
「いえ、大丈夫でございますよー。それに」
特に何かあったわけではございませんですから。ライラはそう説明した。
「……どんな話をしていたか、お伺いしてもよろしいですか」
「はいです。それはお家に戻ってゆっくり」
心配を隠せないメイドに笑みを返す。偽らざる本音だ。そして、話せることはきちんと話しておいた方がいい。プロデューサーたちにも明日報告しよう。
「わたくしの言葉、とは。どういう意味でございますかね」
「……?」
ぼんやりと仰ぎ見る月はまだ大きかった。存在が大きい、というのはすごいことだなとライラは考えていた。
エージェントもメイドも、千夏もプロデューサーも、みんな大人だ。思うところがあれば早速行動に移せたり、連絡がなくとも即座に駆けつけたり。自身の披露の場で伝えたいことを伝えたり、仕事の領域を越えて親身になってくれたり。
それは皆とてもすごいことだし、大人だし、人として素敵なんだろうな、とライラは感じていた。
「大人になるということは尊いでございますね」
「……ライラ様?」
立派な人にはなれなくてもよい。けれど、向き合える大人には早くなりたい。そう思った。
「エージェント夜を往く、なんてダジャレにしてもひどい」
翌日昼。柄にもなく不満げな様子を隠さない千夏が印象的だった。
ライラは昨日あったことをプロデューサーと相川千夏に説明した。あのエージェントはまだ信用ならないところがあるかも、と千夏が苦い表情を見せた。ひとえにそれはライラを想ってのことなのだけど。
「まあ、初めて来た時だって突然だったし……」
プロデューサーは意外にも冷静だった。もちろん昨日の行動含め、共有させて貰いたかったところだけど、と言葉を継ぎつつ。
「どうするの、今後」
「……もう一度、話す場を設けようと思う」
ただしそれは、こちらも段取りがある程度できてからがいい。千夏の問いかけに彼はそう語った。何か、思うところがありそう。それは千夏にも、そしてそばにいたライラにも感じられることだった。
「ライラ」
彼が改めて視線を寄越す。
「は、はいです」
「時間を作ろう。準備するよ、次のライブの」
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