14:名無しNIPPER
2020/11/08(日) 09:08:41.34 ID:FQVp12gN0
「相川さん、いるんでしょ?」
プロデューサーがパーテーションの向こうに声を投げた。マグカップを持った相川千夏が顔を覗かせる。
「気づいていたのね。ごめんなさい、盗み聞きする趣味はなかったのだけど」
「いえ、相川さんなら話を汲んでくださるし、ありがたいです」
奥でひっそりと待機していた彼女。ダンスの指導役でもある今、渦中のライラの事情は知っておきたいところだろう。ライラも同意するようにうなずいて見せた。一拍ののち、いろいろお疲れ様、と労う様子を二人に対して見せる彼女。
「どう思いました?」
「私に聞くの?」
もちろんです。相川さんの意見もほしいですから、とまっすぐに答えるプロデューサー。あきれた、と言いながら彼女は少しだけ笑った。
実はこの二人の歴は短くない。ユニット活動が増えた近年は別のプロデューサーを介することが多いものの、もともとスカウトしてきたのは彼で、相川千夏はれっきとした担当アイドルである。ライラのサポートをお願いしたのもそうした繋がりがあってのことだった。彼女とは遠慮なく会話ができる空気感があると彼は信じているし、そしてそれは千夏も同じだった。いつだってこうして全力で向き合ってくれる彼は頼もしい、と。ちょっと唐突なところが玉に瑕だけど。
「あなたらしいわね」
まっすぐな彼の視線が千夏はどこか苦手で、そして少しだけ好きだった。
「率直に、あの人をどれくらい信じますか」
閑話休題。プロデューサーがざっくりと切り出す。少しだけ思案する千夏。
「……あの人の言葉を、というならかなり信じてもいいんじゃないかしら」
でもあの人を信じていいかとなると、なんとも。そう彼女は返した。概ねプロデューサーも同意見だった。
「そう……でしょうか」
そこにライラが言葉を挟む。
「むしろ逆かもしれませんです」
「……というと?」
二人が視線を送る。俯き加減で、彼女は言葉を続けた。
「あの方は向こうで、パパからそれなりに信頼されていた方だったと思いますです。お仕事ができる方で、ライラさんにも優しい方でした。……だからこそ」
だからこそ、あの感じが少し不思議でした、と。遠大なことのような、ひとまずは静観するような、あの説明に違和感を覚えたというのがライラの主張だった。あの語りが嘘ではないにせよ、何かあるかもしれない。あるいは新たな提案がまた持って寄越されるかもしれない。それは、ありえることだ。
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