9: ◆eodXldT6W6[saga]
2020/09/27(日) 23:42:32.59 ID:PHaCgA4wO
久住「神の使いか。守られとんなー、果穂ちゃん」
久住はにっこり笑って果穂に言った。久住の声音はそれまでとまったく変わっていなかった。変わっていなかったにもかかわらず、果穂は心が締め付けられるような息苦しさを感じた。なぜだがわからない。声の調子はさっきまでと同じ明るくて楽しげ、でもなにかがちがう、ちがっているのは……
笑顔だった。
久住は鳩が拒んだドーナツEPを犯罪の物的証拠を川に向かって投擲するかのように投げ捨てた。色づいた違法薬物はその小ささのために地面に落ちた瞬間は見えず、空中で消失してしまったかのようだった。
果穂は動揺をいよいよ隠しきれなくなっていた。笑顔の変化はとてつもなく微妙で、言葉によってその違和を言い表すのはほとんどできそうになかったが、それでも果穂を不安をもたらした。
久住はドーナツをかじっていた。袋を見もせずに適当な一つを選び、無表情で咀嚼したあと、口の中のドーナツを飲み込みもしないまま久住はボソッと呟いた。
久住「あかん、おいしない」
食べかけのドーナツを袋の中に戻した久住は、ドーナツがつぶれるのも気にせず無造作に紙袋を握りつぶすと、ベンチの背後に広がる草むらへ振り向きもしないで投げ捨てた。紙袋はきれいな放物線を描き、草の上にかすかな音をたてて落ちていった。
果穂はただ呆然とその様子を見ていた。
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