小宮果穂「ドーナツのクズ、メロンパンの車」
1- 20
8: ◆eodXldT6W6[saga]
2020/09/27(日) 23:41:20.48 ID:PHaCgA4wO

 久住はクリアケースの蓋を開け、言った。久住の手が鉄製の仕切りを越え、ケースの中のドーナツEPのカラフルさが直接果穂の目に入る。果穂は水を掬うように両手を差し出した。久住がケースを傾ける。ドーナツEPがカラカラと互いにぶつかって鳴りながら果穂の手のひらに転がり落ちていく。

 突如として、二人の間に一羽の鳩が舞い降りる。ベンチを二分する仕切りに留まりながら、羽を折りたたむことなくバサバサと羽ばたかせている。悪しきものを追い払おうとするかのような羽ばたきのせいで、果穂は受け取るはずだったドーナツEPをすべて取り落としてしまった。


果穂「ご、ごめんなさい! あたし、ちゃんと受け取れなくて……」


 地面に広がったドーナツEPの色彩は古代の占いのようであった。葉蔭の黒と白い木洩れ日による明暗が別れた地面にひろがるその色とりどりの紋様を見た果穂は背筋の凍る思いに襲われた。意図せず悪事を働いてしまった人のように理性ではどうすればいいか分かっているのに感情に極端な負荷がかかり、行動に移ることができないでいる。

 固まったままの果穂をよそに久住は足元に転がっているピンク色のドーナツEPをひとつ摘み上げ、ベンチの仕切りに留まったままの鳩の嘴に近づけていった。

 鳩はゆっくりと近づいてくる久住の手を見つめていたが、嘴の先がドーナツEPの孔にすっぽり収まろうとする寸前に突如自由になったかのように飛翔した。



<<前のレス[*]次のレス[#]>>
37Res/37.82 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 書[5] 板[3] 1-[1] l20




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice