61:名無しNIPPER
2020/09/22(火) 21:02:31.92 ID:V4s4JV6AO
「どうしたのよ、なんか元気無いじゃない」
「水瀬君…君は…他のプロダクションならばよかったと…思ったことはないかい?」
「はぁ?他って…例えば?」
62:名無しNIPPER
2020/09/22(火) 21:03:43.39 ID:V4s4JV6AO
「…」
「いや、もちろん私としては君がここを選んでくれたことは素直に嬉しいよ。しかしだね、君の実力を考えると…それこそコネがあったというだけなら君の家が筆頭株主のこだまプロでも…」
「何言ってるの?」
63:名無しNIPPER
2020/09/22(火) 21:04:26.76 ID:V4s4JV6AO
「それに私はワガママなの。961プロ?嫌よあんな成金趣味の事務所。東豪寺?麗華に頭を下げるなんて死んでも嫌」
真っ直ぐに私の目を見つめる。実は照れ屋な彼女とこうして目が合うことは珍しい。
「だから私はここがいいの。お金が無い?コネが無い?上等よ。全部私が作ってあげるわ」
64:名無しNIPPER
2020/09/22(火) 21:05:29.78 ID:V4s4JV6AO
「社長、こんなチンケなビルで満足しないでよね?いつか私が…あの時押しかけてきた小娘が、水瀬財閥だって持ってないような大きな事務所にしてあげるんだから」
彼女が押しかけてきた時は面食らったものだ。私など父親の知り合いの中でも末端の末端。向こうからすれば胡散臭い業界人でしかなかっただろう。しかし、彼女はそんな薄い縁を伝って、握りしめてここまでやってきた。その意志の強さを美しいと思った。だからこそ、彼女をうちに入れたのだ。
「最後にこれだけは言っておくわ…ありがと…」
65:名無しNIPPER
2020/09/22(火) 21:06:22.89 ID:V4s4JV6AO
07
「おはようございます〜」
「おぉ、三浦君。おはよう」
66:名無しNIPPER
2020/09/22(火) 21:07:09.14 ID:V4s4JV6AO
「なんだか凄い勢いで伊織ちゃんが走って行ったんですけど…」
「そうか、入れ違いだったか…ところで三浦君、君は今日オフではなかったかね?」
「えぇ、そうだったんですけど…近所のパン屋さんに行って帰ろうと思ったらいつの間にか…」
67:名無しNIPPER
2020/09/22(火) 21:07:51.89 ID:V4s4JV6AO
「それならば送って行こう」
「えぇ…そんな、悪いですよ」
「何構わないよ。ちょうど暇していたところでね」
68:名無しNIPPER
2020/09/22(火) 21:08:41.64 ID:V4s4JV6AO
「それでそこのパン屋さんが少しおまけしてくれたんです」
「ほぅ、それは良かったね」
車内では他愛のない話が弾む。本来ならば同年代の女性…うちで言えば律子君くらいと話をしたいところだろうが、そんなことは微塵も出さずにこんな中年の相手をしてくれている。全くできた子だ。
69:名無しNIPPER
2020/09/22(火) 21:09:29.27 ID:V4s4JV6AO
「ふぅ…」
「社長さん?どうかしましたか?」
「いや、少し考えごとがあってね」
70:名無しNIPPER
2020/09/22(火) 21:10:35.50 ID:V4s4JV6AO
「あら?私もしかしてクビになるんですか?」
クスクスと笑いながら答える彼女に揶揄われるのは嫌な気はしない。
「いや、君程の逸材がこんな弱小事務所で燻っているのは申し訳なくてね…それに君の夢は『運命の人』を見つけることなんだろう?」
71:名無しNIPPER
2020/09/22(火) 21:11:27.70 ID:V4s4JV6AO
「うーん…そうですねぇ、でもね、社長さん。私、ここに入る前にバイトをクビになってるんです」
「ん?あ、あぁ…」
「運転免許も二年かけても取れませんでした。手早く、器用にするっていうのが苦手なんです」
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