ロード・エルメロイU世の事件簿 case.封印種子テスカトリポカ
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64:名無しNIPPER[saga]
2020/10/10(土) 22:38:47.93 ID:mG1v5QBi0

 それに倣って、自分も小走りに師匠のもとへ戻ることにした。

「どうぞ」

「ああ、すまないな」

 しばらく座っている内に、師匠の疲労も多少は抜けたらしい。こちらが差し出したボトルを受け取ると、キャップを捻って中身をあおる。ぐびぐびと半分ほどを飲み干して、師匠はようやく人心地ついたらしい。ネクタイを緩め、ワイシャツの第二ボタンまで外し、新鮮な空気を取り入れようとパタパタ引っ張っている。

「……師匠、はしたないですよ。ロードの威厳を示すためにスーツを着てきたのでは?」

「君にとって驚愕の事実になるだろうが、実はあれは嘘だ。ところでミスタ・ローゼンと話していたようだが?」

「ええ、師匠の説明を楽しみにしていると……村からかなり離れましたが、まだ話せませんか?」

 こちらの台詞に、師匠はちらりと現地時間に合わせてある腕時計に視線を落とした。つられて自分も視線を向ける。ランチにするにはやや早めの時間。

 朝は早かったし、お腹が減ったのだろうか、と愚にもつかないことを考えていた自分の意識を、師匠の言葉が現実に引き戻す。

「いや、ここまでくれば大丈夫だろう。調べた限り、あのゴーレムに盗聴機能はないようだしな」

「……特定の誰かに聞かれては困るのだろうな、とは思っていましたが……村に残った調査隊のメンバーの中に?」

「特定の誰か、というより時計塔の魔術師の大多数に聞かせたくない類の話ではあるのだがね」

「? しかし、時計塔の魔術師ということならゴルドルフさんとトラムさんがいますが……」

 二人の同行は彼ら自身からの提案だったが、師匠が特にそれを拒む様子もなかった。

「その方が自然だろうからな」

「?」

「どの道これから全て話す。大丈夫だとは思うが、一応警戒だけはしておいて欲しい」

 意味の分からない師匠の物言いに思わず疑問符を浮かべるが、当の師匠はそれ以上説明する気はないようだった――いや、説明はするのか。大儀そうに立ち上がり、ゴルドルフ達の方へ歩いていく。

 彼らの方も近づいてくる師匠に気づいたようで、こちらに注目が集まった。ティガーも飲み干して空になったボトルを口に加え、べこべことへこましたり膨らましたりしながらやってくる。

「なになに、なんかあったガオ?」

「噂の推理ショーの始まりか」

 ゴルドルフが水から足を引き抜き、首に掛けていたタオルで拭いながら呟く。どうやらアドラやイゼルマでの出来事が伝わっているらしい。

「それでは神霊にどう対抗するのか聞かせて貰おうか。まさか今になってそんなものはない、などとは言うまいな?」

「ええ、もちろん。ですがその前に、ひとつ明らかにしておきたいことがあります」

 そう呟いて、師匠はこの場にいる全員の顔を見回した。ゴルドルフ、トラム、ティガー。ゆっくりと確認するよう、順番に。

「明らかにしておきたい事柄?」

 訝しげな表情を浮かべるゴルドルフ。対して師匠は、何でもないという風に、だがとんでもないことを言い出した。

「我々の中に、テスカトリポカが紛れ込んでいます。それが一体誰なのか、という話です」


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