ロード・エルメロイU世の事件簿 case.封印種子テスカトリポカ
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30:名無しNIPPER[saga]
2020/09/22(火) 20:17:34.30 ID:kGu0y7r00

 全てが遠ざかり――そして唐突に戻ってくる感覚。

「……ねえ、シンデレラ」

 意識を覚醒させたのはティガーの声だった。

 既にたき火は消えている。だが、朝になったというわけでもないらしい。どのくらい寝たのだろうか。地面の上で寝たせいで体は強張っていたが、動くのに支障があるほどではない。

 指先すら見えない暗闇の中で、ティガーが立ち上がるのを物音だけで察する。

「ティガーさん……?」

「変な臭いがしない?」

 これまで見せたことのない真剣な声音で呟くティガー。言われるがままにすん、と鼻をひくつかせると、確かに不快な臭気が鼻腔の奥を刺激する。

 何かが焦げる臭い――それも大量の何かが。

 たき火とは違う。これは"燃えてはいけないもの"が燃えた時に出るものだ。

「……どうかしたのか」

 暗闇の中で、師匠も目を覚ましたらしい。衣擦れと、呻くような声だけがこちらの耳朶に届く。珍しいことだ。暗闇で表情は見えないが、寝起きが絶望的に悪い師匠にしては、声がはっきりとしていた。

「ミズ・ティガー? 何があった?」

 その問いに答えたのか――あるいは単なる独り言かは判断できなかったが、次のティガーの台詞は剣呑極まるものだった。

「村が――燃えてる!」

 村? ティガーの村が燃えている?

 問う前に、彼女は動き出していた。

 だん! と地面を蹴りつける音と振動が響き、続いて草木を踏む気配が遠ざかっていく。密林の中に駆けこんでいったらしい。

「ティガーさん!?」

「待――ああ、くそ! 追うんだ、グレイ!」

 ぼっ、と小さな炎が暗闇を僅かに退け、師匠の顔が明かりの中に浮かんだ。どうやらシングルアクションの魔術で、炎を指先に燈したらしい。

「事情は分からないが、どうやら緊急事態らしい。この暗闇では、完全に置いていかれれば追跡できなくなる!」

「は、はい! アッド!」

「イッヒヒヒ! こいつは責任重大だぜ愚図グレイ! 事件か事故か知らんが、あの虎姉ちゃんが戻ってこなけりゃ確実に遭難だ!」

 師匠の燈してくれた灯りを頼りに、アッドを手に取る。鳥籠に入った直方体は、物理的には有り得ざる変形を経て慣れ親しんだ形へと至った。

 収穫者が振るうモノ――死神の鎌。グリム・リーパー。

 濃密な密林の魔力を取り込み、全身へ回す。強化した眼は、木々の隙間から降る星明り程度の光量でも周囲を見通すことが可能となる。

 その視界に、物凄い勢いで遠ざかっていく民俗衣装が映った。

 恐ろしく速い。下手をすれば、強化を使っている自分よりも。考えている時間は無かった。

 師匠をその場に残し、自分も全力で夜のジャングルへ飛び込んでいく。


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