30:名無しNIPPER[saga]
2020/10/04(日) 01:27:09.02 ID:WsJ2cUxc0
その声は露骨に落胆が混じっている。しかし、それは相手が強敵でなかった事への不満ではない。
じっと敵を見据えた所で「HPバーが見えない」「モンスター名が視界に表示されない」といった風に、ライトノベルでのオヤクソク(とは言え葛葉は小説のアニメ化を見る勢であったが)がこの世界ではまるっと無視されていた件に対してだった。
ユーザーインターフェイスが行き届いていない、と葛葉は思わず天を仰いだ。
ゴブリン達は少しの間、こちらに走って現れた目前の背の高い亜人種を警戒していたが、しかしその手に武器は見られず、なによりもこちらの姿を認めても襲ってこない。身体の小さなこちらを認めてなお攻撃に移らない生き物はすなわちすべからく自分たちの獲物である。ゴブリンのDNAにはそう刻まれていた。よって本能に従ってゴブリンは即座に狩りを開始する。
「ギャッギャギャー!!」
三体は揃って飛び掛かった。正面から、右から、左から。的を絞らせぬ三方向。一匹が対処されようが残り二匹が確実に息の根を止める。いっぺんに襲い掛かれば大型の肉食獣や、ともすれば武装した人間の兵士すら一方的に蹂躙出来るというそれは小鬼の知る唯一の兵法であった。
シンプル、故に強力。目の前の人間など一たまりもない。
――はずだった。
「シッ!!」
少年の裂帛の気合とともに放たれた何かによって、先ず正面を担当していたゴブリンが声も上げずドサリ、その場に崩れ落ちた。両サイドを担当していたゴブリンはそれぞれ困惑に足を止めてしまう。
今のはなんだ? この男は一体何をした?
男は丸腰。拳が届くにはまだ距離が有った。だからと言って飛び道具を持ち合わせてはいる訳でもない。暗器か? それとも……いや、人間のレア種、魔術師にしては詠唱が行われていない。果たしてほんの数秒でゴブリンにそこまで考えが回ったかは分からない。
しかし少年の「得体の知れなさ」だけは彼らに十分に伝わっていた。
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