29:名無しNIPPER[saga]
2020/10/04(日) 01:18:20.82 ID:WsJ2cUxc0
見守られている側、葛葉は初陣でありながらほとんど緊張はしていなかった。それもその筈、初陣なのはこの世界においてでしかない。
嘘みたいな本当の話、葛葉の戦闘経験は豊富である。ゲームでの話ではない。実践の話で、実戦での話だ。
アレクサンドル・ラグーザ――彼の実家の魔界での職業は衛士。つまり、元職業軍人である。ひまわりは先ほど弟の横顔をして「歴戦の兵士に似ている」と評したが、似ているどころでは本来は無い。
そのもの、だ。
「……体内の魔力循環は正常。黒剣錬成、スタンバイ。羽は……森ン中じゃ逆に邪魔か」
葛葉は駆けながらぶつぶつと呟き、初戦にあたって体の各部を丁寧に一つ一つ確認していった。手の中に凝縮させた夜の残滓を剣に、あるいは大鎌に、あるいは斧に次々と形を変えさせて、そこに何の抵抗も感じない事から自分の本来の戦闘能力が微塵も制限されていないという仮定に行き当たる。
「それはヤベぇでしょ、モイラ様……」
程なくして視界が開け、そこには葛葉がにらんだ通り三匹の生き物――亜人が待ち構えていた。
「ギャギャッ!」
「ギャァッ! ギャッギャッ!」
「うるせーよ、何言ってんのか分かんねっつの。月木の朝にゴミ捨て場に群がるカラスか、てめーらは。駆除するぞ、駆除」
軽口を叩きながら、しかし慎重に相手を観察する。身長は自分の半分ほど。黒緑色の肌に饐えた臭い。ほとんど形だけの粗雑な造りの皮鎧を着て錆の浮いた短剣や手斧をそれぞれその手に構えている。葛葉には見覚えが有った。魔界に居た時には小銭稼ぎによく狩った相手だ。
「ゴブリンか……まあ、鳴き声に聞き覚えはあったんだよな」
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