高垣楓「あなたがいない」
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165: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/24(木) 21:33:06.57 ID:itU6iUE10

「忙しいのは、ほんと、なによりじゃないですか」

 私が言う。

「そうですね。楓さんはそろそろ、再開されるんですか?」

 ちひろさんが訊く。

「私はもう始めたくてうずうずしてるんですけど、プロデューサーからゴーサインが出なくて」
「そうですか。ならお手伝い、お願いしますね」
「ええ、喜んで」

 そう、仕事をしていない今、レッスンなどで時間を費やすことも必要だと思うのだけれど、なぜかそれもストップされている。
 手持ち無沙汰な私に、ちひろさんは事務の手伝いをお願いする。ありがたく、その仕事を拝命するのだ。

「そう言えば……」

 書類整理をしながら、私はちひろさんに昼間のことを話してみた。

「カウンセリング、ですか」
「ええ。ちひろさんは受けられたこと、あります?」
「いえ、実は私も、ないんです」

 ちひろさんも、経験はないようだ。

「私の場合は、親がいろいろ話し相手になってくれたので……特に必要はなかったかなあ、って」
「ああ、なるほど」

 身近な相手がいる、ということ。確かに大きいと思う。でも私は。
 つい、ちひろさんをちらちら見てしまう。
 今彼女と一緒に暮らしていることもあって、一番身近な相手というと、やはり彼女かなあという気がする。

「ん?」

 ちひろさんが視線に気付く。私はちょっと恥ずかしくなった。

「私でよければ、いつでも」
「いえ、ちひろさんには毎日お世話になってますし、たまには別な方に相談するのもいいかなあ、と」
「あら、振られちゃいましたね」
「いえいえ! そんなことは!」
「うふふ、冗談です」
「……もう」

 彼女にお世話になりっぱなしは、良くない。
 少しは自分自身でなんとかする癖を、つけなくては。




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