高垣楓「あなたがいない」
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134: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/22(火) 21:34:39.47 ID:CC20O+KU0

「ただいまー」
「お邪魔しまーす」

 私は足を引きずりつつ、ちひろさんをリビングへ案内した。

「あ、楓さんは無理しないで。いろいろな準備は、私がしますから」
「そうですか……じゃあ、お願いします」

 本来はホステスがきちんとしなければならないところなのだけれど、なにせこの体だ。
 彼女の好意に遠慮なく甘えよう。私は客布団の場所などを教え、ダイニングの椅子に腰を下ろす。

 辺りを眺める。
 ほんの二日間、家を空けていただけなのに、ずっと帰ってきていなかった錯覚に囚われる。
 そう思うと、あのライブでの出来事はとても奇異に感じられた。

 あのライブでの私は、アイドルの私であったはずなのだけど、それをかなり逸脱していた気もする。
 なぜこうなったのか。それを考えようとすると、どうにも考えがまとまらなくなる。まるであの時を拒絶しているかのようだ。
 私であって、私でない。気味の悪いなにかに取り憑かれているみたいで、私は恐ろしくなる。




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