高垣楓「あなたがいない」
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133: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/22(火) 21:33:54.19 ID:CC20O+KU0

「なんかお待たせして、ごめんなさい」
「いいですいいです。気にしないで」

 彼女の笑顔に救われる。昨日より心が動いていることに、私はふと気付いた。
 空腹のまま造影剤を入れられ、CTとMRIを撮影する。幸い気持ち悪くならなかったけれど、体に力が入らないのはなかなかに堪えた。

 左足首のねん挫と、額の裂傷。それ以外に外傷はなさそうだ。
 相変わらず体はぎしぎしと痛い気がするけれど、看護師さんが車いすで補助してくれている。
 こうした経験は滅多にするものではないし、したら大事ではあるから、私は貴重な経験をしていることになる。
 せっかくだから今日は、お任せにしましょう。ちょっとだけ楽しく思った。

 検査が終了し、部屋で待たされる。
 検査の時間は短いのに、こうして待っている時間は存外に長い。ようやく呼ばれ説明を受ける頃には、すっかり夕方になっていた。
 そしてめでたく退院、社長さんとは病院でお別れし、ちひろさんは私のマンションへ一緒に向かう。

「今日は私、楓さんと一緒にお泊まりしますので」

 ちひろさんは明るくそう言った。きっと彼女なりの配慮なのだろう、私は素直に甘えることにした。
 マンションに着きドアを開ける。ノブの重さが久々のように感じられる。




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