高垣楓「あなたがいない」
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129: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/22(火) 21:29:58.74 ID:CC20O+KU0

「い、痛い」
「あ、ごめんなさい!」

 体のあちこちが痛んで、私はつい声を上げてしまった。瑞樹さんが申し訳なさそうにしている。
 私はなんとか体を傾けようともぞもぞ動いてみるけれど、痛みに負けて動くことをあきらめた。

「とりあえず、第一報は済んでます」

 社長さんの声だった。第一報とはおそらく、今回の事故についてのこと。
 マスコミに投げ込みをしたか、ひょっとしたら会見をしたのかもしれない。

「本当に、ごめんなさい」
「いえ、高垣さんの無事がなによりです」

 社長さんの掛ける言葉に、私は謝るしかない。

「プロデューサーにも、ご迷惑をおかけしました」
「いや、楓さんが無事なら、それでいいんですよ」

 私の謝罪に、プロデューサーはそう答えた。

「それで、ライブは」
「ああ、いいからいいから。今はなにも考えなくていいから」

 プロデューサーは私を押しとどめる。
 私は思っていた。
 ああ、ファンの皆さんに心配をかけているな。代替公演を計画しないと。
 まずは、他のスタッフとサポメンにも謝罪しなければ。
 この後の段取りを、淡々と。不思議と悔しいとも、悲しいとも、思うことがなかった。




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