13: ◆z.6vDABEMI[saga]
2020/08/26(水) 23:43:49.24 ID:qUczw4Pjo
◆
頭がごちゃごちゃだった。
「俺もよく分かんねえんだけど……だけどさ、これは何か変なことんなってんだって」
酒井はひどく真面目なままで言った。いや、いや。ちょっと待ってくれ、俺に理解をする時間をくれ。俺が……平子で、夏の……ええい、どういう意味だよ?つまり?
「そもそも『としまえん』なんて、俺は……」
「知らないんすよね?そうじゃなきゃいけないんですよ、むしろ」
しかし、確かにそうだった。
としまえんという『夢の施設』が存在していることを俺は全く記憶していないし、なんならこうしてウィキペディアを見せられても全くピンとこない。流れるプールどうこうも全然理解できず、呆然とする。
そこが俺の夢の国だった?10年以上通いつめた?熱量持って誰よりも好きだと叫んでいた?いや、いや……だめだ、そんなもん一切浮かばない。
知らない、のではなく。
知っていたが、忘れた。
状況的にそう考えた方がしっくりくる。……本当か?
「つうか、そうしないとこの状態に説明がつけらんないの。だって、もう……そうってことじゃない?」
なにをどうやってその結論に辿り着いたのだろうか、計り知れずに一歩二歩、思わず後ずさりしてたじろいでしまった。今までの話もそうだったけれど、それ以上に結論が全く理解ができなかったせいだ。
酒井の根拠と信憑性がやけに薄いし、今までの話をまるまる、全部疑わずに信じろと言うのは流石に無理がある。カケラも何も思い出せないのが辛い。何か言ってやりたいが、かと言って何か有効な情報もない。
よし。
「……警察を呼ぼう」
いや、だが、そもそもだ。
俺は馬鹿なのか。こんな、ありえない事態を前にして冷静になろうとしすぎていた。けして彼を無碍にしては行けないなんて思ったわけではなく、単にきちんと訪問してきた客人に対する礼節として話を聞いてやっただけだ。頭からこれを信用する必要など一つもなかった。
───そう、不審者だ。
酒井は、いま時点で俺を信用させるだけの証拠を一つも持っていない、ばかりかよくわからない話をして俺を混乱させようとしている。ジャケットの内ポケットからスマートフォンを取り出して一言そう告げれば、酒井の目の色はみるみる変わっていく。
「俺には仕事があるんだ。いつまでも、そんな与太話に付き合っている場合じゃないんだよ」
「ちょっ……待ってよ、ここまで話したのにまだ信じてくんねえの?」
「信用するだけの材料が無いだろう」
「……あるよ」
ぽつりと。
「あ?」
それは湖面に落ちる雨粒のように本当に小さい声で。
「あるよ。材料っつうんなら……俺とアンタの思い出がいっぱいある。写真とか、映像とか」
「……何?」
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