4: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2020/08/16(日) 14:44:09.79 ID:pO5Rz81k0
〇
「自動販売機で五千円も使う人、初めて見たわ」
後部座席に積み上げられている大量のペットボトルを見ながら、プロデューサーにそう言ってやると、彼は「あれ以外、方法がなかったでしょうが」と口をへの字に曲げた。
「それで、お返しっていうのは?」
「ああ。もうすぐだよ。車酔いとか、してない?」
「問題ないわよ。ふふ、心配性ね」
「そりゃあ、なぁ」
うねうねとした山道であることから、私の体調を案じてくれたのだろう。
このように、アイドルとなってしばらく経った今となっても、彼は私をガラス細工か何かのように扱う癖があった。
傍から見れば過保護と言う他ないのだが、こればかりは性分であるようで、一向に治る気配がない。
そんな彼の心配性にも、もう慣れた。
それに、私のことを思ってあれこれと手を尽くしてくれるのはありがたいことであるし、くすぐったく感じることははあれども、嫌ではなかった。
何より、私の隣に置いておくのには彼くらい心配性な方がどうにもバランスが良いらしい。
先に、先に、と一歩でも前へ進みたくてオーバーワーク気味になってしまうことが多い私に、適切な形でブレーキをかけてくれるのはいつだって彼だった。
「何、笑ってんの」
「何でもないわよ。ただ」
「ただ?」
「良い天気だと思って」
ややあって彼が「ああ」という低い声と共に頷いた。
その視線は、高く青々と広がる空ではなく私を射抜いている。
「確かに、良い天気だ」
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