有栖川夏葉「トロピズム」
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3: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2020/08/16(日) 14:43:19.66 ID:pO5Rz81k0

「こんなところに、バスが来るのね」
「どうだろう。もしかしたらもう廃線になってるかも。でも」
「でも?」
「いいものを見つけた」

言って、彼はエンジンをかけたまま車を降りる。手には財布が握られているところを見るに、何かを購入するつもりだろうか。

彼に続いて、私も車を降りてその後ろ姿に小走りで追いつく。

バス停の背面へとぐるりと回り込むと、そこには錆びついた自動販売機があった。

「これ、動くのよね」
「どうかな。まぁ、お金入れてみたらわかるよ」

言って、彼は財布から紙幣を取り出し投入していく。
お釣りとして吐き出されずにいるところを見るに、動いてはいるようだった。

「いけそうだ。夏葉は何飲む?」
「私はいいわよ。まだ水筒に残ってるから」
「でも、あの山を越えないとコンビニないんだぞ」

遠方に聳える山を彼は指で示す。
確かに、ここは甘えておく方が賢明かもしれない。

「じゃあ、お言葉に甘えようかしら」
「さっきのお礼だと思って、な」
「間接キス、のかしら?」
「そっちはもうちょっとしっかりしたお礼をさせてくれ」
「あら、有栖川夏葉とのそれに見合うお返し、期待していいのかしら」
「もちろん。楽しみにしてくれていいよ」
「ふふ。いいわ、じゃあこの麦茶は前金ね」

指先で自動販売機のボタンを弾く。
するとほんの少しの間があってから、ごとりとペットボトルが落ちてきた。

「ほんとに、大丈夫かしら」

若干の不安が残る形で出てきたペットボトルを拾い上げる。
予想に反してひんやりと冷たく、賞味期限の表示も問題がなさそうだった。

プロデューサーは「念のため」とサイダーに加え、私と同じ麦茶を購入していた。

「それだけ買えば安心ね」
「だろ。…………あれ?」

お釣りを返却するレバーを何度も何度もがこがこと上下するも、反応はなさそうだった。

「飲まれたわね」
「飲まれてなるものか」

それから私は、残額が尽きるまで飲み物を購入し続ける彼の勇姿を見守る羽目になった。



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