1: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2020/08/16(日) 14:40:58.37 ID:pO5Rz81k0
備え付けられたエアコンが、ごうごうと雄叫びを上げながら冷気を必死に吐き出していた。
窓から射し込んだ陽の光は、その健気な努力を嘲笑うかのように届く範囲の一切をじりじりと焦がす。
そんな、シーソーゲームのただ中に私たちはいた。
「暑いわね……」
もう何度目かもわからなくなったその言葉を吐き出せば、隣の運転席からも何度目かわからなくなった「暑いなぁ」が返ってきた。
全国的に記録的な猛暑となる。
確かに天気予報ではそのようなことを言っていた。
だからこそ、しっかりとした日焼け対策や十分な飲料を持って来たはずだった。
しかし、ここまでとは思っていなかった。
運転席にある車外温度の表示を見やれば、重度の風邪の時でもなければならないような数字が出ていた。
「人間だったら、インフルエンザくらいか」
私の視線に気が付いたのか、運転席の彼、アイドルである私のプロデュースを担当してくれているプロデューサーが冗談めかして言う。
「ええ。そうでなくてもきっと、すごく重症よ」
「夏葉、ちゃんと水分摂ってるか。喉が渇く前に飲むんだぞ」
「アナタこそ、しばらく飲んでないんじゃないかしら」
きゅるきゅると水筒の蓋を回して、彼に手渡す。
「これ、夏葉のだろ」
「アナタの水筒、もう空なんでしょう?」
私の言葉を受けて、プロデューサーは目を真ん丸にする。
どうやら気付かれていないとでも思っていたらしい。
「もらっちゃっていいのか」
「喉、渇いてるんでしょう? 見たらわかるわよ」
申し訳ないなぁ、と彼は呟いて水筒を軽く傾ける。
控えめな量を口に含んで、ごくりと飲み下す様をぼんやり眺めたあとで私は「アナタに倒れられる方が困るもの」と言った。
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