20: ◆Rin.ODRFYM[saga]
2020/08/09(日) 23:37:06.89 ID:S7yVE8bX0
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「九回裏、抑え込まれていたおしぶ打線が最後の意地を見せました。クリーンナップが鮮やかに出塁し、本日初めて訪れたチャンスらしいチャンス! 満塁で迎えますは主砲、渋谷選手です。さぁアウトカウントは二つ、試合は彼女に委ねられました!」
グローブを装着してマウンドの上に立っているプロデューサーはノリノリで状況設定を語っている。
私の所属しているらしいチームの名前はもう少しなんとかならないのか、だとか、私の他には誰がいるのか、だとか。
聞きたいことは山ほどあったが、今は全てを頭の隅に追いやって、バットを強く握りしめる。
キャッチャーなどいるはずもないのに、なぜか彼は何もない私の後ろの空間に向けて首を振っており、サインが決まりません、などと叫んでいる。
その後、ようやくサインが決まったかと思えば一塁の方向へ牽制を行うような素振りをした。
「早く投げてよ」
いい加減に焦れてきた私はマウンド方向へと声を投げる。
それがまた面白いのか、彼はけらけら笑っていた。
一人で楽しそうなやつである。
再びバットを強く握り、構え直した私を見据え、プロデューサーも大きく振りかぶる。
なかなかに綺麗な投球姿勢であるところを見るに、経験者というのもあながち嘘ではないのかもしれない。
振り下ろされた彼の腕から放たれた白球は、真っ直ぐにこちらへ迫る。
いける。
どういうわけか出自不明の自信が胸の内よりわいてきて、私はバットを思い切り振り抜いた。
直後、手のひら全体にじんわりと伝わる痺れを感じる。次いで、遅れたように私は快音を聞いた。
「え。マジ?」
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