高森藍子が一人前の水先案内人を目指すシリーズ【ARIA×モバマス】
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◆jsQIWWnULI
2020/08/30(日) 19:04:10.45 ID:s2H4XrND0
しばらく無言で水路を通る。大回りをするためには、裏道的な水路をいくつか通らなくてはいけないから、その間は観光案内もできない。いや、出来るのかもしれないけど、今の私にはできない。誰も何もしゃべらない。ただ、ゴンドラのきしむかすかな音が、オールが水を切る音が、水路の上を撫でるように過ぎていく風が、そこにはあった。
けれど、なんだかこのゴンドラの空気感が少しいたたまれなくなって、私は再びまゆさんに話しかけた。
「……まゆさんは、今どうして逃げてるんです?」
「え?」
「いえ、先ほど二人の女性から逃げてらしたから、どうしてかなって……たしか、明後日に公演があるって言っていましたよね。彼女たちはお友達ですか?」
「……はい。アイドル仲間です……そうですね、どうして私、逃げているんでしょう」
まゆさんはそう言うと、少しだけ空を見上げた。
「いえ、わかってるんです。どうして自分が逃げ出したのか。どうしてプロデューサーさんのところから逃げ出したのか」
そしてまゆさんは私の方を見る。
「わたし、今回の公演を最後に、アイドルを辞めようと思っているんです」
「え!?」
いきなりの発言に、私は耳を疑った。まゆさんは喋り続ける。
「アイドルを辞めて、正式にプロデューサーさんとお付き合いをしようと、そう思っていたんです。だけど、プロデューサーさんは首を縦には振りませんでした。プロデューサーさんは、私の好意は嬉しいと言ってくれました。だけど、『まだまゆに見せてない景色があるから、もう少しだけアイドルをやらないか』って、そう言ったんです。私、その時思ったんです。私の大好きなプロデューサーさんは、つま先から頭のてっぺんまでプロデューサー業で詰まっていて、そんな彼だからこそ、私は好きになったんだ、だけど、そうするとプロデューサーさんと一緒になることは出来ないのかもしれないって。でも、プロデューサーさんを困らせたくもない……だんだん考えているうちに、わからなくなっていって。自分で自分がわからなくなって……気が付けば部屋を飛び出していました」
そこで、まゆさんはふぅと一息つく。
「……ごめんなさい。こんなことを話してしまって」
「いいえ。全然大丈夫ですよ……まゆさんって、優しくて、本当にそのプロデューサーさんが大好きなんですね」
「……え」
「だってそうじゃないですか。悩んでるときでも、そのプロデューサーさんのことを考えているじゃないですか。大好きだけど、困らせたくないって。たぶん、それがまゆさんなんですよ。自分で自分がわからなくなっても、プロデューサーさんのことを考えてしまう。そんな姿がまゆさんなんです。そして、それで良いんだと思うんです。まゆさんにとっても、プロデューサーさんにとっても」
裏水路を抜けると、大きな水路に戻ってきた。目の前には、マルコ・ポーロ邸宅跡の建物がある。
「目の前に見える建物、マルコ・ポーロの邸宅跡なんですよ。マルコ・ポーロは中国の皇帝の娘と恋愛の末結婚してイタリアに帰った後、すぐにまたどこか違う国へ行ってしまうんです。当然、結婚した皇帝の娘はヴェネツィアに独りぼっちです。当時はそんな時代ではありませんでしたから、旦那であるマルコ・ポーロに自分も連れて行ってくれとは言えません。結局彼女は寂しい思いをしながら運河に身を投げ出したとされています。そして、その日からマルコ・ポーロ邸宅には、夜な夜な女性の幽霊が現れるようになったと言われています」
だんだんとマルコ・ポーロ邸宅跡に近づいていく。まゆさんはじっと私の話を聞いている。
「彼女は、大好きな人に何も言えないまま、一人寂しく水の底に沈んでいってしまいました。だけど、まゆさんならそんな風にならなくても済むはずです。だって、まゆさんだから」
ゴーン、ゴーンと鐘の鳴る音が響く。辺りにいた鳥たちが一斉に飛び立つ。沈みかけている夕日が、なんだか今日初めて会ったみたいな表情をする。
「まゆ、だから」
「はい」
「……そうかもしれませんね」
「はい!」
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