高森藍子が一人前の水先案内人を目指すシリーズ【ARIA×モバマス】
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◆jsQIWWnULI
2020/08/30(日) 19:02:03.96 ID:s2H4XrND0
「……そういえば、目的地を聞いていませんでしたね。すいません。目的地はどこですか?」
「目的地、ですか……考えていませんでした……とにかく今は戻りたくないから」
先ほどからまゆさんは暗い顔をしている。戻りたくないってことは、きっとアイドルとしての活動の際に何かあったのだろう。
「……では、ネオ・ヴェネツィアをぐるっと大回りしましょう!安心してください、私はまだ半人前なので大回りしようと一人前の水先案内人の料金よりは安いですから!」
さすがに大回りすればプリマの通常料金よりも高くなるのだが、なんだかまゆさんを放っておけない気がして、私はそう言った。アイさんが私の顔を見てきたので、ニコッと笑顔を返した。するとアイさんはやれやれと言った表情で先ほどの姿勢に戻った。
「……じゃあ、そうしてもらえますか?」
まゆさんが言う。
「はい、もちろん!任せてください!」
私はそう言うと、ゴンドラを漕ぐ手を少しだけ強めた。
「……さっき、自身のことを半人前だと言ってましたよね」
「ええ」
私がゴンドラを漕いでいると、今度はまゆさんから話しかけてきた。
「だけど、藍子さんの運転は、他の人と比べても、なんというか、粗が少ないというか……」
「本当ですか?ありがとうございます!私が自分のことを半人前と言ったのは、水先案内人にそう言った制度があるからなんですよ」
「制度?」
「はい。水先案内人になるには、まず両手袋、つまり見習いとして基礎的なことを身につけなくてはいけません。そして、試験を経て片手袋、半人前になるわけです。そしてさらに実践的な練習だったり、観光案内の練習だったりの研鑽を積んでようやく、晴れて一人前の水先案内人になるんです。こうした制度をとることによって、より質の高いサービスをお客様に提供することができるようになったらしいです。私はこの前片手袋になったばかりなので、一人前の水先案内人になるにはまだまだなんですけどね」
「なるほど……水先案内人にはそういった仕組みがあるんですね。藍子さんはどうして水先案内人に?」
「そうですね……なんだか呼ばれた気がしたんです」
「呼ばれた?」
「はい。私はマンホーム出身で、ゴンドラに乗ったのも小さい頃でよく覚えていなかったんですけど……中学校で自分の進路を決めるとき、どうしてかアクアの、ネオ・ヴェネツィアの、水先案内人が頭に浮かんだんです。ネオ・ヴェネツィアの女の子たちは水先案内人があこがれの職業らしいんですけど、マンホームではそんなことなかったから、どうしてあの時そう思ったのか、どうして自分が今ここにいるのか、未だによくわからないんです。けど、水先案内人を目指してよかったって、毎日そう思ってます。運命って言葉はきっと、こういうことを表すためにあるんですよね」
「……良いですねぇ……」
「はい!……まゆさんは、どうしてアイドルに?」
「私は、モデルをしていた時に、プロデューサーさんにアイドルやってみないかって誘われたのがきっかけなんです。そこからプロデューサーさんと一緒にやって来たんです」
さっきまで少し暗い顔をしていたまゆさんの表情が明るくなる。
「そうなんですか。じゃあ、そのプロデューサーさんと出会ったのは、もしかしたら運命だったのかもしれませんね」
「ええ、間違いなく運命です」
まゆさんは間髪入れずに答える。
「運命だし、運命の人なんです。プロデューサーさんは……」
そして、まゆさんは左手首に巻いてある赤いリボンをぎゅっと握った。
「……好きなんですか?その人のこと」
言って、私は踏み込みすぎたなと思った。しかし、まゆさんは気にした様子もなく
「ええ。もちろん」
と答えた。
「どんな方なんですか?」
「とっても優しくて、頼りがいがあって、カッコよくって……でも」
まゆさんは一旦口を閉じる。そして再び開く。
「身体の芯まで、プロデューサーなんです」
そう言って、悲しそうに笑った。
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