魔王と魔法使いと失われた記憶
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78: ◆Try7rHwMFw[saga]
2020/08/14(金) 16:45:36.65 ID:eY+H6i2KO
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「……おかわり」

フードをすっぽりと被ったまま、魔王が空になった皿を突き出す。テーブルの上には、早くも3枚の皿が重ねられていた。

「よく食べるのね……」

「俺は燃費が悪いからな。人より多く食らうし、多く寝ないといけない。とりあえず、この肉のスパイス炒めと『レー』を頼む」

「私、あれ苦手なのよね……」

「オルランドゥは一応モリブス領内だろう?食べないのか」

「辛いのダメなのよ……」

モリブスに行くのは3年ぶりだ。とにかく全部の料理がスパイスが効いていて辛いのだけど、「レー」は特に辛い。
サラサラで真っ黒なスープは、とても人間が食べる代物とは思えない。お米と一緒に食べるのだけど、私は2口で挫折した。

魔王が小馬鹿にしたように笑う。

「小娘は舌まで小娘だな。だから甘口の『ウー・ドレー』しか食えないのか」

「これは辛くないもの。ミルクのまろやかな風味が麺に絡んで美味しいわよ。嫌いなの?」

「辛さこそモリブス料理の真髄だろう?ミルクで誤魔化すのは邪道だ」

スパイス炒めと「レー」が運ばれてきた。ここの「レー」は特に黒い気がする。本当に、あれは同じ食べ物なのかしら。
私は「ウー・ドレー」の白い麺を啜った。甘味の中に複雑なスパイスの香りが拡がる。

「んぐっ……モリブスに、詳しいの?」

「まあな。昨日少し話したが、俺の後援者はモリブスにいる。俺もそいつのところで世話になったんでな」

「ジャック・オルランドゥだっけ?オルランドゥ魔法学院と、何か関係が……」

「もちろんある。だが、それについては本人の口から聞いてくれ」

魔王が匙を口に運んだ。表情は変わらないけど、額には汗が滲んでいる。

私のことを知っていたのは、それが理由なのかしら。


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