77: ◆Try7rHwMFw[saga]
2020/08/14(金) 16:44:50.38 ID:eY+H6i2KO
「ねえ」
「何だ」
声をかけたはいいけど、何から話すべきか思い付かない。そもそも、男性とちゃんと話すこと自体、今までの人生の中でそう多くはなかったのだ。
「……」
「……変な奴だな」
「あの……魔王ケインって、どんな人だったの」
魔王が馬を止めてじっと私を見た。……触れてはいけない話だっただろうか。
「……それがどうした」
「ただ、訊きたかっただけだけど……」
小さな溜め息が聞こえた。
「お前には関係のないことだろう」
「でも、あなたはサンタヴィラの惨劇の真実を知りたがっている。彼が、そんなことをする人じゃないと思っているからでしょ?それに、あなたもそこまで悪い人じゃない、多分」
「何を根拠に」
「何となく。それに、魔法使いはマナでその人の性質が分かるの。あなたは偉そうでちょっとムカつくけど」
ふん、と魔王が鼻を鳴らした。
「……小娘が偉そうに」
「でも、あなたが知る魔王ケインは、御伽噺の絵本のような極悪非道の悪党じゃない。そうでしょ?」
「……随分魔族に同情的なんだな」
「同情的じゃないけど……全ての魔族が、悪い人じゃないと知ってるだけ」
そして、そうだと思いたいから……私は「追憶」を産み出した。
魔王は馬を再び歩ませた。
「……父上は優しい人だった。厳しいが、少なくとも俺にとってはいい父親だった。
敵には容赦はない。刺客を斬り捨てたのを見たこともある。だが、理由もなしに誰かを殺すなんてことは、絶対にしない人だ」
「サンタヴィラ王国が何かした、と?」
「分からない。だが明らかに今語られている『魔王ケイン』は、俺の知る父上ではない。
とりあえず、次の宿場町で飯を食うぞ」
それきり、魔王は黙ってしまった。
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