756: ◆Try7rHwMFw[saga]
2021/01/11(月) 21:30:17.18 ID:b5rhOPz3O
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エルファンからヘイルポリスまでは、オルランドゥ大湖沿いに馬を走らせ半日程度だ。
シュトロートマンの勢力が強い地域であるらしく、この方面から攻められる心配は薄いのだという。
それにしても、クロエたちは相変わらず暢気なものだ。まるで小旅行から帰ってくる程度のノリだ。どう切り出せばいいか……
「クロエさん、ところでそれ、ヘイルポリスの遺跡から出土した、って」
プルミエールから先に彼女に話しかけてくれた。正直、助かる。どうも俺はこういうのが苦手だ。
「……あ、『パワードスーツ』?うん、そうだけど」
「その遺跡ってどんなものなんですか?何か気になっちゃって」
「あー、昨日のランダムさんの言葉が気になってるのか……」
ちらりと彼女がブランを見る。ブランは小さく頷いた。
「あんたらなら言ってもいいだろ。ヘイルポリス南部にある小遺跡さ。そんなに深度はないけど、それでも出土品は結構あってね。こいつだけじゃなく、幾つか『秘宝』が見つかってる。
んで、アリスさんは『まだ奥があるんじゃないか』って疑ってる。あの人、オルランドゥの教授じゃなくって冒険者が本業なんじゃねえかな」
「かもね。昔、ジャックさんも来たことがあったって聞いてる。父だったら、もっと詳しく知ってるかも」
父上も、何か絡んでいたりするのだろうか。あるいはデボラの両親も。
「俺からも、いいか?」
「ん、いいわよ」
「お前らがカルロスを助けたのは、偶然じゃないな」
2人の表情が凍った。図星か。
「……どうしてそう思うの」
「あまりに時機が良過ぎる。そして、今の余裕。そんな魔法があるとは思わないが……未来が読めているのか?」
ふう、とクロエが息を付いた。
「……さすがね。といっても正確じゃないんだけど」
「どういうことだ」
「ヘイルポリス遺跡の最奥には、ある装置があってね。私たちじゃ使えないけど、アリスさんは使える。と言っても、この前来た時に使えるようになったのだけど。
『1週間ぐらい先までの未来が予測できる』んだって。それもかなりの精度で」
「何!!?」
「嘘っ!!?」
俺とプルミエールの声が重なった。そんな馬鹿げたことができるわけが……
「……まあ、そう思うのが当然だよね。私たちも、カルロス君を助けるまでは半信半疑だった。
あの時刻、あの場所にスティーブンソン近衛騎士団団長が現われた時、正直震えたわ。ね、ブラン」
「ああ。それで、俺たちもアレ……確か『スパコン』だったか。その『予言』を信じるようになったってわけさ。
ヘイルポリスを出る時に、アリスさんから1週間は皇弟ナイトハルトの動きがないとは聞いてたからな。しばらくの身の安全は濃厚と判断してる」
……なるほど、やはり種があったか。しかし……これは。
「人智を逸してます、ね……」
プルミエールに先を越された。そう、その通りだ。ランダムがああ言った理由も、少し分かる。
そんな「神」に近い力を、アリス・ローエングリンは扱えるのか?それは、間違いなく為政者からしたら……脅威でしかない。
「そうね。『秘宝』は、私たちが及びもつかない可能性を持っている。
だからこそ、皇帝ゲオルグの圧政から人々を解放する可能性がある。そうは思わない?」
「……かもしれませんね」
プルミエールは、何か考えている。この女は考えに甘い所はあるが、決して馬鹿ではない。
そして、俺の中にも疑念が生まれた。父上が「サンタヴィラの惨劇」を起こした理由は、何だ?
遥か向こうに、尖塔のようなものが見えてきた。あれが、ヘイルポリスか。
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