757: ◆Try7rHwMFw[saga]
2021/01/11(月) 21:30:43.44 ID:b5rhOPz3O
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「父様、クロエ・シュトロートマンただいま戻りました」
ヘイルポリスの古城に入ると、長髪の初老の男が奥から現れた。温厚そうだが、どこか厳粛な空気を纏っている。
「君が、『魔王』エリック・ベナビデスか」
「ええ。あなたが」
「左様。ヘイルポリス領主、カール・シュトロートマンだ。ここに来てくれて幸甚に思う。
その女性が、プルミエール・レミュー嬢だな。話はアリス・ローエングリン教授から聞いているよ」
「お会いできて光栄です、陛下。教授は」
「北部のイミル関だ。私は一旦こっちに戻ってきたが、彼女はまだあそこだ。オルランドゥ卿もそこだが……」
「容態が良くない、とは聞いています。大丈夫なんですか」
シュトロートマンが口を濁す。
「……とてもそうは見えない。ただ、考えがあってイミル関にいるのだとは思う。幾つか、『秘宝』も持ち込んでいるようだし、全く無策とは考えにくい」
……「秘宝」か。何か、胸騒ぎがする。
「その『秘宝』が何かは、ご存知なのですか」
「いや……あれを扱えるのは、ローエングリン教授だけだ。こちらとしては、ひとまず彼女に任せるしかない。今までも、彼女には色々助けられてきたしな」
プルミエールに視線を送る。彼女が小さく頷いた。
「私たちをイミル関に連れて行ってくれませんか」
「無論だ。ただ、今日はもう遅い。宿を取っているから、そこで休むといい。
それにしても、エリック君、だったな。やはり、ケイン殿とよく似ている」
「……やはり父上をご存知でしたか」
「会ったのは、私がごく若い時の一度きりだったが。先代皇帝シャルルについて諸王会議に出た時に、な。立派な方だったと記憶しているよ。
『サンタヴィラの惨劇』の話を聞いた時は、耳を疑ったものだ」
「父上は、ジャック・オルランドゥ卿やアリス・ローエングリン教授とも懇意でした。その点について、話を聞いたことは」
「……そうなのか。初めて聞いたよ」
俺は軽く落胆した。シュトロートマンは、あまりジャックやアリスの素性について詳しく知らないらしい。
「とりあえず、簡単な祝宴の席を設けている。よかったら、どうだ。昨晩の『アンバーの隠れ家』ほどのものは出せないと思うが」
「いえ、ご相伴に預からせて頂きます」
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