746: ◆Try7rHwMFw[sage]
2021/01/11(月) 18:30:24.30 ID:m+vxd/s9o
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「おー、よく来てくれたな」
店に入ると、さっきと同じ髑髏のシャツ姿で、ランダムさんが出迎えに来た。
既にテーブルには料理が用意されている。……5皿?
「あ、俺も一緒に飲もうと思ってな。今日は貸し切りだ」
「どうしてそこまで?」
「んー、気分だな。今日予約してた客には、頭下げて別の日にしてもらったよ」
「……気分、な」
エリックが訝しげにランダムさんを見る。彼は「ハハハ」と快活に笑った。
「まあいいじゃねえか。酒も用意してあるぜ。エルファンの貴腐ワインから行こうじゃねえか。あ、酒は皆行けるかい?」
「はいっ!是非」
「俺はそこまで強くないが……まあいいだろう」
クロエさんたちも問題ないみたいだ。テーブルに着くと、ランダムさんがワインを開ける。
ふわりと、甘いハチミツのような香りがここまで広がってきた。
「凄い……!!これが名高い、エルファンの白ワインですか?」
「おう。白じゃなくって貴腐ワインだがな。貴腐ワインは知ってるか?」
私は首を振った。クロエさんは口をあんぐりと開けている。
「話には聞いたことがあるわ。ブドウをカビさせて作るワインが、最近できたって……まさか、それ?」
「おう。というか、俺がやり始めた。これをやると糖度が跳ね上がるんだよ。
甘味を凝縮するという意味じゃアイスワインも近いが、こっちの方がより風味が豊かだ」
「よくそんなこと思いつくわね……さすがは『アンバーの隠れ家』の主人」
「ハハハ、たまたま『知ってた』だけさ。じゃ、まずは乾杯と行こうか」
黄色い液体の入ったワイングラスを掲げ、ランダムさんが「出会いに乾杯!」と叫んだ。
グラスを合わせてワインを飲む。……何これっ!!
「うわっ!!甘いっ!!!」
「ちょっとこれ凄いな。砂糖かハチミツ入れたんじゃないのか??」
驚くブランさんに、ランダムさんがニヤリと笑う。
「ところが完全にブドウだけだ。食前酒にはちょうどいいだろ?
テーブルにある前菜はこいつに合わせている。ブルーチーズのソースを使った夏野菜のテリーヌだ」
貴腐ワイン?テリーヌ?聞いたことがない言葉ばかり出てくる。最高級レストランって、こんな感じなのかな。
前菜に手を付けた。野菜の甘さを癖のあるソースが引き立てる。その風味をワインがさらに強めている。間違いなく美味しい。
ただ、この料理の味わい、どこかで……
「ん?嬢ちゃん、口に合わなかったか?」
「いえ、とても美味しいんですけど。どこかで食べたことがあるなあって。
……あ、オルランドゥのカトリさんと、ウカクさんのお店だ」
そうだ。チーズの使い方が、とてもよく似ている。あそこもチーズを使った料理が売りだった。
ランダムさんが驚いたように目を見開く。
「驚いたぜ、そいつらは俺の弟子だな」
「そうなんですか??」
「ああ。俺は弟子とか取らねえんだけどな。そいつらは別だ。元気してるか?」
「はいっ!あそこも色々お酒が置いてあって、いつも通ってました」
「おお、そうか。ってことは嬢ちゃんは、魔術師関係者だな」
言葉に窮した。あまり、私たちの旅の目的を人に話すべきじゃない。
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