747: ◆Try7rHwMFw[sage]
2021/01/11(月) 18:30:51.77 ID:m+vxd/s9o
「え、ええ、まあそんなところです」
「心配すんなよ、訳ありなのは初見で分かってる。お前さんたちが連れて来たそのカップルも、まあまあ只者じゃないな。
例えばそこの黒髪の姉ちゃんが左腕に着けているのは、ただの腕輪じゃない。違うか?」
クロエさんが思わず左手首を隠した。
「なっ!!?」
「ハハ、だから心配すんなよ。皇室の連中にチクるつもりはねえよ」
「……本当にお前、何者だ?記憶喪失なのも、嘘か」
エリックの言葉にどこからかワインの瓶を取り出して、ランダムさんは静かに首を振った。
「や、それは本当だ。嘘をつく理由がねえよ。ただ、何となくそいつの『マナ』……さらに言えば人格とかが分かる。生まれつきだろうな。
料理もそうだ。もともと、俺には知識があった。ないのは、記憶だけだ」
「取り戻したいとは思わないのか?」
エリックがちらりと私を見た。15年前……今の私では難しいけど、もう少し成長すればできなくはない。
ランダムさんは肩を竦める。
「いや、今の生活には結構満足してるんだよな、これが。昼は魚を釣って、時には山で狩りをする。
それを使った料理で皆に喜んでもらう。それだけで十分なんだよ。金も名誉も、なぜか欲しいとは思わねえんだ。……ただ」
「ん?」
「……いや、言ってもしょうがねえんだがな。1つだけ覚えていることがあるんだよ。それは、『エチゴ』という男を追えってことだ」
「『エチゴ』?」
「そう。名前しか分からねえ。なぜ追わなきゃいけねえのかも。ただ、記憶を取り戻さない方がいい気もしててな」
ランダムさんはワイングラスをあおった。……記憶を取り戻したがっていたオーバーバックとは、正反対だな。
「ま、とにかくこうやって若いのと酒が飲めるだけで幸せだぜ。ワインもスピリッツも、北ガリアだったら大体いいのを取り揃えてるぜ。ドンドン呑んでくれ」
761Res/689.43 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20