744: ◆Try7rHwMFw[sage]
2021/01/11(月) 18:28:49.94 ID:m+vxd/s9o
……誰だろう、この人。
甘い時間を邪魔された憤りより先に、私が感じたのは違和感だった。
ランダムと名乗る男性の見た目は、ランパードさんそっくりだ。耳がエルフのそれだったら、確実に私も間違えていただろう。
でも、それ以上に不思議だったのは、彼が纏う空気だ。マナが凄くあるわけじゃない。ただ、どこか現実離れしている。髑髏のシャツも、見たことがない意匠だ。
「名前を聞いたわけじゃない。だから、何者だと聞いている」
差し出された手を無視してエリックが言う。ランダムという人は、うーんと唸りながら頭を掻いた。
「それが分かりゃ苦労はしねえんだよ。俺自身よく分かってねえんだから」
「何?」
「記憶喪失なんだよ。15年前からずっと、な。ただ、幸い酒と料理の知識だけはあったからな。それを生かして、ここでレストランをやってる」
彼が湖畔の小屋を指差した。
「『アンバーの隠れ家』ってんだ。飯時には早いが、どうだ?
せっかくいい雰囲気の所邪魔したから、お代はまけとくぜ」
「……ビクター・ランパードという人はご存じですか。あなたにそっくりの、トリスの貴族です」
「俺にか?いや、聞いたことがねえな。そいつ、エルフなんだろ?他人の空似じゃねえか?
世の中には自分と同じ顔が3人いるというしな」
私はエリックと顔を見合わせた。彼に敵意はない。でも、明らかに何か、浮世離れしたものを感じる。
「お前、魔術の心得が?」
「あー、何か分かるんだよ。そいつがどのぐらいのマナを持っていて、どんな奴か。多分、生まれつきだな。
で、お前さんたち2人は俺が今まで感じたことがないマナがある。量とかじゃなく、『色』がな。
あ、名前聞き忘れてたぜ。兄ちゃん、名前は?」
「……!!お前、俺が子供とは思わないのか」
「や、そんなマナを子供が持ってたらおかしいだろ?30前ぐらいか、ざっくり。で、名前は?」
「……エリック、とだけ言っておく」
ランダムさんの表情が、一瞬固まった。僅かに目が潤むと、それをゴシゴシと擦った。
「あ、何だこれ……おかしいぜ。妙に目が湿ってやがる。……会ったことは、ねえよな?」
「……お前によく似た男にならあるが」
エリックも戸惑っている。本当に、何者だろうこの人。
「……まあ、いいや。飯、ただにしてやるよ。どうだい」
「いいんですか?」
「おう、お前さんたちならいいぜ」
「じゃあ、あと2人増えても大丈夫ですか?」
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