740: ◆Try7rHwMFw[sage]
2021/01/11(月) 18:26:06.23 ID:m+vxd/s9o
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「……えっ?」
「ん?部屋は2部屋だよ。私はブランと、であなたたちと」
エルファンの宿のカウンターの前。プルミエールが口をパクパクさせたまま固まっている。……さすがにそれは聞いてない。
「……どういう意味だ」
「あ、そういう関係じゃ『まだ』ないの?アリスさんからはそう聞いてたけど」
「違うっっ!!!どうしてそんな適当な……そもそも、お前らは一緒でいいのか?」
「そりゃねえ。もう20年もいれば家族同然だしね」
「……はあ」
溜め息をつくブランの頭を、クロエが軽くはたく。
「何嫌そうな顔してんのよ」
「どうせ主導権はそっちなんだろ、知ってる。暴君の『姉』を持つと疲れるよ……」
「ほう、そこまで搾り取られたいの?」
今度は俺が溜め息をついた。「そういう関係」か。
にしても、こんな緊張感がないやり取りをできるのはやはり妙だ。
「……分かったから騒ぐな。今日はそういう部屋割りでいい。まだ日は高いから、少しぶらついてくる」
「了解。7の刻までに戻ってくればいいわよ」
宿を出た俺の後を、プルミエールがついてきた。
「ちょっと、幻影魔法は?ただでさえ目立つんだから……」
「……おかしいと思わないか」
「え?」
「あの2人、あまりに余裕がありすぎる。まるで、『何も起こらない』のを知ってるかのように。
そもそも、最初からしておかしい。カルロスがやられそうになった所に都合よく現れたらしいが、そんな偶然があるのか?」
「まさか、疑ってるの?」
クロエたちは多分、敵じゃない。俺たちを殺そうとするなら、単に油断した所を背後から刺せばいい。
ただ、何か裏がある。あるいは、この件自体が何か別の意図があるのじゃないか?
「……分からん。考えすぎかもしれないな」
俺は、今の推測を話すのはやめることにした。まだ早い。
そもそも、クロエとブランはさほどプルミエールと歳が変わらないだろう。せいぜいクロエが俺と同じ程度のはずだ。
未熟だから、緊張感なくいちゃつける。その可能性も、なくはない。
プルミエールがはぁと息をついた。
「色々この数日あったし、疲れてるのよ。少し湖畔を歩いて、ゆっくりしましょ?」
「……そうするか」
プルミエールが不意に俺の手を握った。体温がぶわっと上がるのが分かる。
「何だそれは」
「え、嫌だった?」
「嫌じゃないが……」
「ならいいじゃない。サラファンって、ちょっとした避暑地だし」
辺りを見ると、確かに家族連れや恋人同士が多い。
オルランドゥ大湖のほとりにあるこの宿場町は、テルモンからの観光客が多いのを俺は思い出していた。
だとしたら、恋人を「演じた」方が不自然ではない、のか。
「分かったよ」
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