741: ◆Try7rHwMFw[sage]
2021/01/11(月) 18:26:33.85 ID:m+vxd/s9o
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「〜♪」
プルミエールは上機嫌で鼻歌を歌っている。こいつもこいつでどうにも調子がおかしい。
「よくそんな気楽でいられるな」
「エリックが根詰め過ぎなのよ。そりゃ、私だって不安だけど……でも、少しくらい気晴らししないと、疲れちゃうから」
「そんなものか」
「そんなものよ」
オルランドゥ大湖に、日が沈もうとしている。茜色が湖面に照らされ、何とも言えない美しさだ。
不意に、プルミエールを見る。頬が僅かに朱が差しているように見えるのは、俺の気のせいだろうか。
「プルミエール」
「……ん?」
ドクン
その微笑みに、俺の鼓動が高まった。……何だこれは。そもそも、なぜ俺はプルミエールの名を呼んだ?
「……どうしたの?」
「い、いや。何でも……」
いけない。これじゃ俺は、まるで見た目通りの、思春期のガキじゃないか。
何か言わなければ。言葉を探すが、全然出てこない。焦りがさらに沈黙を深める。
プルミエールの顔が、気持ち近くなっている。え、待て、何だこれは……
苦し紛れに視線を外した。……その先にいた人物を見て、俺は固まった。
まさか。こんな所にいるはずがない。
短い黒髪に痩せた長身。耳こそ長くないが、それは……あの男に瓜二つだ。
「……ランパード?」
「え?」
プルミエールが俺の視線の先を見た。ランパードそっくりの男は、黒い髑髏があしらわれたシャツを着て、釣りに興じている。
そして、俺たちの存在に気づいたのか、ニヤリと笑った。
「よう、お二人さん。何か用かい?」
「あ……ランパードじゃない、のか?」
「ランパード?知らねえが……ほうほう」
男は釣竿を置くと、こちらに近付いてくる。俺はプルミエールの前に立った。
敵意はない。マナも感じない。ただ、他人の空似というには、似すぎている。
男は頭をかきながら苦笑する。
「いや、すまねえな。実に面白いマナだったんでな。デートの邪魔なら、消えるぜ」
「……お前、何者だ?」
男はふむ、と宙を眺め、「やっぱこれだな」とひとりごちた。
「俺は、ランダムだ。よろしくな」
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