魔王と魔法使いと失われた記憶
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739: ◆Try7rHwMFw[sage]
2021/01/11(月) 18:25:25.18 ID:m+vxd/s9o
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「存外『魔王』も感傷的なんだねえ」

馬上のクロエがニヤリと笑う。

「……ふざけろ。気のせいだ」

「ロックモールを離れてから、チラチラ『女神の樹』を振り返ってたじゃない。まあ、心残りがあるのは分かるけど」

「うるさい」

横のプルミエールがクスクス笑った。

「……何がおかしい」

「ううん、何も。……戦況は、どうなんですか」

「私たちが出た時は、膠着状態だったと思う。皇弟ナイトハルトが直々に出てくるのは始めてじゃないけど、父には北部の『イミル関』で痛い目に以前遭わされてるから」

「痛い目?」

トントン、とクロエが左手首の腕輪を叩く。

「『パワードスーツ』。ナイトハルトも遺物『グングニル』持ちだけど、父の守りは崩せなかった。手間取っている間に、崖上からの集中砲火を食らって撤収、というわけ。
イミル関は皇都とヘイルポリスを繋ぐ要所なの。今も、多分あそこで止まってる」

「でも、俺たちの支援が必要なのはどういう意味だ?」

ブランが気まずそうに頭をかく。

「アヴァロンによってユングヴィの神官兵が動員されてね。それで皇都での陽動が上手く行かなかった。
アヴァロンは死んだらしいけど、その腹心のアウグストは健在だ。こいつも何考えてるか分からないけど、ナイトハルトと組んだのは嫌な予感がするな」

「アウグスト?」

「そう、アウグスト・フェルナンデス。あいつは基本イーリス内部でしか動いてなかったし、知らなくて当然か。
アヴァロンの恐怖政治の一翼を担った奴だよ。異教徒や魔族の弾圧ではアヴァロン以上に苛烈かもしれない。
アヴァロンが行方不明になった情報がすぐに入るとも思えないけど、知ったらどうするかは読めないね」

……アヴァロンみたいなのがまだいるのか。神への盲信は害悪でしかないな。

「つまり、そいつが来るまでにナイトハルトを撃退すればいいわけだな?」

「そういうこと。ゲオルグが直接来たらまた厄介だけど」

「詳しい話は現地で、ということだな」

にしても、切迫した状況であるはずなのに、2人には妙な余裕がある。信用してないわけじゃないが、何か引っ掛かる。

「どうしたの、エリック」

「いや……何か、な」

視線を前に向けると、ポプの並木が見えてきた。今日の宿場である、エルファンが近いようだ。


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