738: ◆Try7rHwMFw[sage]
2021/01/11(月) 18:24:45.95 ID:m+vxd/s9o
「随分慌ただしいねえ。あんたもまだ回復してないんだろ?」
デボラが苦笑した。右肩は石膏で固められている。
「急いだ方がいいみたいだからな。一応、クロエたちの薬のお蔭で多少は体力は戻っている」
日はまだ低く、涼しさまで感じる。ヘイルポリスまでは2日ほどの道のりだが、それでも早いうちに出た方がいいということだ。
そう、俺たちはヘイルポリスへと向かうことになった。ジャックとアリスを救うためだ。
プルミエールがザックを担ぎ直した。向こうでは、クロエとブランがもう発つ準備をしている。
「デボラさんたちは、しばらくここに?」
「まあね。モリブスから軍隊が来るから、今回の件の説明をしなきゃいけない。一応、一部始終を説明できる立場にはあるからね。
それに、この肩じゃ足手まといになりかねない」
デボラの視線が、プルミエールから俺に移る。
「……アヴァロンの件、本当に心から恩に着るよ。仇の一人を討ってくれた……何と礼を言えばいいのか」
「それはいい。俺だってお前には随分助けられたからな」
「……ふふ、そうだね。『前と同じ御礼』は、できそうもないしね」
意味深に笑うデボラに、プルミエールはきょとんとしている。
「シェイド君も残るの?」
「にゃ。ご主人のことは気になるけど……エリックほど体力が戻ってるわけじゃないにゃ。行くなら万全にしてからにゃ」
「じゃあ、後で合流だね」
「そうなるにゃ。デボラ姉さんも行くにゃ?」
デボラが拳を握ってみせた。
「そうだねえ……まだ、仇は討ったわけじゃない。オーバーバックは、あたしがこの手で」
「蜻蛉亭」から、メディアと車椅子に乗ったカルロスが現れた。
「……もう、行くのか?」
「ああ。メディアを人間にするのはしばらく待ってもらうことになるが、大丈夫か?」
「信じて待つよ」
カルロスがメディアを見上げた。彼女は静かに微笑む。こんな表情もできるのかと、俺は少し驚いた。
「くれぐれも、肉体的接触は避けろ。性交なぞもっての他……」
「んなの肌身に染みて分かってるよ。それにこの身体じゃ、そういうのは無理だ」
クスクス、と後ろでプルミエールが笑う。
「……何がおかしい」
「いや、お母さんみたいだなあって」
少し、顔が熱くなった。
「……っ!ま、まあいい」
「ははは……無事を祈るよ」
「私からも、ささやかですが祈りを」
2人と握手をする。「そろそろいいかな?」と、クロエの声がした。
「分かった。……行ってくる」
4人が手を振る。次に会えるのは、いつだろうか。
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