魔王と魔法使いと失われた記憶
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659: ◆Try7rHwMFw[saga]
2020/12/10(木) 23:13:40.93 ID:6QjOvduJO


エストラーダ候の背中から伸びる、歪んだ幹。その先にアヴァロン大司教の上半身がくっついている。
その異形の怪物を見た時、私は激しい絶望と後悔に襲われた。


人を殺すのは、初めてだった。エリックと一緒に行動するようになってからも、私自身が直接誰かを傷付けたことは、ない。
だから、目の前にいた男が、どんな鬼畜であろうと……それを撃つことに対して躊躇がなかったかと言われたら、それはきっと、違う。

でも、それでも即座に撃たなきゃいけなかった。それが、こんな事態に繋がってしまったんだ。

「……プルミエールさんは、悪くないにゃ」

シェイド君が、呟いた。

「あの速度では、誰も反応、できないにゃ。それより、エリックを……」

「シェイド君!?」

彼が崩れ落ちる。その瞬間、激しい衝撃を私は感じた。

「きゃああっっっ!!?」

3メドほど、シェイド君ごと飛ばされただろうか。右腕の上が、激しく痛む。シェイド君は無事みたいだけど、それでもかなり身体を強く打っているようだった。

『……まだ加減が上手く行かないですね。当てたつもりだったのですが』

私は、アヴァロンの右腕……というよりは巨大な「幹」の風圧が、私を薙ぎ倒したのをようやく理解した。
……風圧だけであの威力?直撃なんてしたら……

いや、怖がってる場合じゃない。悔やんでる場合でもない。
シェイド君は限界だ。デボラさんは立ち上がったけど、右肩を押さえている。あんな短時間で、治るわけがない。

右手を曲げる。痛いけど、骨は折れてない。エリックを助けられるのは、私だけだ。

「シェイド君、デボラさんを連れて家に逃げて」

「家に?……ああ、そうだにゃ。了解にゃ」

シェイド君が、よろめきながら走り始めた。もちろん、ヴェルナーさんたちの支援という意味もある。でも、それだけじゃない。
カルロス君とメディアさんが隠れている地下室。そこには、崖の方に抜ける隠し通路がある。

多分、彼らはそれを使って逃げているはずだ。そして、直接戦えなくなったら、彼らに追い付き、守ってあげる。
ある程度状況が煮詰まった時にはそうすると、事前に決めていた。

『逃げるつもりですか?』

巨大な幹が、シェイド君に向けて振り下ろされる。


「させないっ!!!」


「魔導銃」が火を吹き、幹に直撃する。
それを破壊するまでは至らなかったけど、それでも大きく向きを変えることぐらいはできた。


ズォォォォンンッッッッ!!!


巨大な地響きが耳を突いた。


「助かったよ!!」


シェイド君と合流したデボラさんが叫ぶ。2人は、家の中へと消えていった。


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